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これは優しいお話です  作者: aー
   王都で出逢う人たち
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雑用係 side総一郎

 かの有名なベルノーラ商会から、憲兵隊に雑用係がやってきた。

 小柄な少年はにっこりと笑顔をこれでもかと無駄遣いしている。まるで本当に女の子のような愛らしい顔。深緑の髪に暗い瞳の“彼”は、目が合うとにこりと笑った。

「ソウさん、こっち終わりました。次は何をすればいいですか?」

 声をかけられるたび俺の眉は最大限に寄る。

「うぜぇ」

「ひどいなあ。ボク、こんなに可愛いのに」

「自分で言うやつがあるか。お前の良いところは頭ぐらいか」

「顔も良いって言ってくださいよ。自分がモテないからって僻まないでください」

 この野郎と呟けば、俺のバディであるカメロが苦笑しながら俺たちを見た。

 カメロは俺よりも歳が四つ上だからか、時折俺を弟のように扱う。もともと面倒目が良いのだろう、有難いことだが時折鬱陶しい。茶髪に茶色の眼をしたやつは、どんな格好をしても地味で人の印象に残りにくいのが悩みらしい。

 まあ、俺が憲兵なんてやってられるのは、こういうやつのおかげだが。

「ソウ、リノ、今日は南区をまわる予定だ。そろそろ準備しとけよ」

 リノと呼ばれた少年はカメロにも笑った。

「はーい」

 カメロが手をひらりと降って警棒を腰に下げて外に出る。俺たちもあとを追った。

「さて、行くか」

「ところで総一郎、誰が頭だけですって?」

「お前は今、男のふりをしてんだから、その口調はやめろ。気持ち悪いぞ」

「ちっ」

 里奈改めリノ。何をとち狂ったのか彼女は男装して憲兵見習いとして入ってきたのが数日前。顔見知りということで押し付けられて早数日。俺はすでに疲れていた。

「それにしても何歳サバをよんでんだよ。九歳って、お前、それはないわ」

「誰も違和感すら抱かない状況には、私も驚いているわ」

「今15だっけ?」

 この世界の人は俺たち日本人と違い、肉体の成熟が早く、俺や里奈はどうしても幼くみられる。俺はこれでも二十三だが、何故か十七歳だと勘違いされている。

「そうなのよねー。まあ、元の年齢を考えればもっと上なんだけどさ。このくらいの時が15だったから、多分間違いないと思うんだよ」

「あー。なんか異世界転移って不便だよな。俺もこっちに来たときはなんか若返っててさ。ま、こっちに来たのは二年前なんだけどな」

「それからずっと憲兵として働いてるんだっけ。すごいねー」

「たまたまだよ。憲兵に拾われて、人手が足りないってんで色々世話になってな」

 歩きながら話していると、外で待機していたカメロと落ち合った。遅いぞ二人とも、と優しい笑みが向けられる。

「カメロ先輩。ボク南側ってまだ慣れないんです。美味しいもの売ってます?」

「リノ、仕事だ」

「仕事もですけど、ボクにとって食べることは大事なことなんですー! ねー、カメロ先輩」

「はは。リノはまだ小さいからな。あとでうまいもん買ってやるから頑張るんだぞ」

「やった!」

 こいつ、本当に大人だった過去があるのだろうか。どうしても信じられないんだが。

 そんな俺の気配を察知したのか、里奈はにこりと微笑み俺の腕を引っ張った。

「ソウさーん。早く先輩って呼ばせてくださいねー」

 ぎゅうぅっと二の腕をつねりやがった。

「お前も、いつか男の中の男になりやがれよ」

「あっはー。ボク、この通りすでにモテモテなんで間に合ってまーす」

 里奈の時は多少お澄まししていたこいつも、リノになった途端こんな感じだ。

「リノは本当にソウが好きだね。やっぱりお兄ちゃん子なのかな? リノのお兄さんもソウみたいな雰囲気だし」

 お兄さんとは、あの危なげな青年の変装時のことを言うのだろう。初日と違い、今は深緑の髪にシンプルな服装姿で、ベルノーラ商会で雑用をしているらしい。

 雑用といいながら、行っているのはこの王都の情報を収集することだ。そのため見回りの際に必ずと言っていいほどかち合う。

「俺、あいつ苦手」

「なんで?」

 二人そろって首をかしげるんじゃない。

「なんか怖い感じしねえ?」

「やさしーよー」

「優しそうだぞ?」

 いやいや、毎回俺を殺しそうな目で睨んでくるからな。

「リノ、お疲れ様。頑張っているかい?」

「あ。おにーちゃーん!」

 ああほら、過保護すぎるお兄さんが今日も登場だ。

 俺は止まらぬため息をつき続ける羽目になるのだった。


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