気に入らない男 sideネッド
「里奈。王都名物ならこの鳥だな。絶対食ったほうがいい。ソースは三種類あるが、俺はこのチーズソースがおすすめだ」
「ありがとう総一郎。全種類試すけど、まずはそれをいただくわ」
リーナのことを、なぜかリナと呼ぶこの男は、ソウと名乗った。リーナがソウイチロウと呼んでいるので、どちらが本当の名かはわからない。
リーナがどうしても礼がしたいとうので、調書の後食事を馳走している。もちろんかつらは装着済みだ。
料理が届くあいだ、リーナがふと声をかけてきた。
「この件、アレクにいくかしら」
すでに行っている可能性が高いとは言えない。あいつのことだ、こちらの動きは逐一チェックしていることだろう。
「・・・黙っているのは得策ではありませんよ」
「うーん。面倒ね」
こいつ本当にアレクセイと結婚するつもりないんだな・・・・・最近どんどん扱いが雑になってないか?
俺的には別にいいけど。
「じゃあ、明日朝一番で帰りましょうか」
「そうね、そうしましょう・・・・と、言いたいところだけど、総一郎。わたし王都に来たのは初めてなの。色々教えて頂戴」
「あー、まあ、俺が休みの日ならいいぞ。それより里奈、お前コンヤクシャサマがいるんだって? 相手貴族らしいじゃないか。俺と一緒にいるとまずいんじゃないのか?」
安心しろ、お前じゃなくてもかなりまずい状況だ。
「いやだわ。わたしまだ十歳よ? それに彼は父に承諾されていないもの。婚約者というのは微妙な立場だわ」
ふーん。と興味のなさそうな男にカチンとくるが、今は我慢だ。どうせ飯が終わればこいつとはおさらばだからな。
「お嬢さん。この人は忙しそうですし、王都なら店の連中に案内させますから」
「ネッド、私ね、この人ともっと話したいことがあるの。一日でいいから」
「・・・反対です。こんなどこの馬の骨ともわからない若造にあなたを任せるなんて。それに、万が一このような男と出歩いて、それをアレクセイに見つかったら本当に大変ですよ」
あいつは絶対嫉妬に狂うだろう。そうなれば面倒ごとの臭いしかしない。
「・・・やだ」
ああもう、普段ならこんな我儘いくらでも聞いてやりたいが、いかんせん若い男とでかける約束なんて許せるはずもない。坊ちゃまや奥さまに知られたらどうすればいいんだ。
「お願いネッド、これは大切なことなの」
「アレクセイよりもですか?」
「え、うん。当たり前じゃない」
・・・・いや、俺は悪くない。なんかすまん、アレクセイ。
「では商会はどうしますか」
「ちゃんとお仕事はするわ。でも、今この王都の情報を裏まで詳しいのはこの人だと思うの。私は表面的なことだけを知りたいわけじゃないのよ。ねえいいでしょう? お兄ちゃん」
ぶふぉっと男が食っていたものを吐き出した。汚いやつだ。
「お前ら兄妹だったのか? そりゃすまんかったな。俺は総一郎だ。見ての通り憲兵だ。下端だが王都のことならある程度わかるから聞いてくれ」
「兄妹なんて恐れ多い。俺は彼女の護衛だ。不審がられないよう兄妹のふりをしているだけだ。あとなんだその顔は」
「いや・・・」
総一郎がちらりとリーナを見て、彼女もその視線に頷きを返した。
「ところでネッド、一つ調べてほしいことがあるの。多分この王都が、一番情報が手に入ると思うのよ」
「・・・なんなりと」
リーナがいつになく真面目な顔をして俺を見た。
「二年前に引退したという勇者の話をできる限り調べて頂戴」
「勇者ですか・・・わかりました」
何故と思わないでもないが、リーナがこんな顔をする理由はきっと後で聞かせてくれるだろうと思い、俺は大きく頷いたのだった。




