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これは優しいお話です  作者: aー
   王都で出逢う人たち
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王都二日目

 王都の朝は騒がしい。

 日が昇ると同時に始まる朝市の声に、多くの馬車や荷馬車が走り去る音。宿のキッチンからは朝から料理人や女将さんの声が響き、旅立つ人を見送るようだ。

 ネッドの隣のベッドで目覚めた私は、すでに変装を終えナイフを研ぐ彼に目を向けた。

「おはよう、ネッド」

「おはようございます、お嬢さん」

 ネッドは笑みを浮かべなければやはり普段のネッドに見える。優男風もいいけれど、こちらの方が安心感があった。

「今日はどうしますか」

「まずはお手紙を書きます。各ギルドに顔を出したら商会にも挨拶にいきます」

「朝食は宿でいいですか」

 ネッドが一度頷いて問うので、私は少しだけ考えてやっぱり頷いた。

「朝市も気になるけど・・・今日は宿のご飯を楽しみたいわ」

「では着替えてください。俺は廊下に出てます」

 当たり前のようにそう言って立ち上がるネッドを呼び止める。

「お兄ちゃんがいちいち外に出るのはおかしいのではないかしら?」

 そもそも森で二人きりで過ごした中なのに、今更気を使われてもねという気持ちだ。

「・・・いえいえ、今は護衛ですか」

「お兄ちゃんなのに?」

 それは目立ちそうだと言えば、ネッドが苦虫を思いっきり噛みしめたような表情を浮かべて小さな声で言った。

「後ろを向きますから着替えてください」

 私は大きくうなずいて、およそ淑女とは言えない速度で着替えた。手櫛で髪を整えた後はかつらをかぶる。

「ネッド、かつらを整えて」

「・・・はい」

 何やら大きなため息が聞こえたが気にしない。

 私たちは朝の支度を済ませると部屋を出てカギをかけ、廊下にある水桶でタオルを濡らして顔を拭いた。そのまま宿の一階にある食堂に進み女将さんに声をかけると一分後には朝食が運ばれてきた。

「たんとおあがり」

「ありがとう、いただきます!」

 固めのパンにトウモロコシとカボチャのスープ。手作りのソーセージにちょっとしたサラダ。朝から贅沢な食事だった。

「はぅ、しあわせ」

「・・・よかったね」

 ネッドが苦笑しつつ私の口元をぬぐう。お兄ちゃんが板についてきたね!

 満腹気分で幸せを担当した私は、手早く手紙をしたためて一泊お世話になった宿を出た。

「まずはどのギルドにいきますか?」

「冒険者ギルドで手紙を配送してもらうわ。それから、商業ギルドで過去のデータと現在の様子を確認するわ。あとは商会のほうへ挨拶ね」

 てきぱきと伝え、冒険者ギルドへ向かう。王都の冒険者ギルドは南の大門から少し西にずれた場所にある。人通りは多いが、もともと冒険者の朝は早いため人では出払っていた。

 ギルド職員はドアから入った私とネッドを見て客だと思ったらしい、人の良さそうな受付の人が声をかけてきたので手紙の件を依頼して早々に出た。どの街のギルドも似たような作りだから迷うこともないのが助かる。

 手紙を出すときは、本来ならば商業ギルドを通すことが多いのだけど、危険な森を抜ける場合は冒険者ギルドを通さないといけないからだ。

 次は商業ギルドだけど、こちらは南の大門から東へ行った場所にあるため少し歩く。

 朝市は終了していたがそこかしこから元気な人々の声が響いていた。

「ごきげんよう、入ってもよろしいかしら」

 ネッドを後ろに控えさせギルドに入ると、おや、と顔を上げた受付の男性が近寄ってきた。

「おはようございます、お嬢様。どのようなご用でしょうか」

 三十代前半とおぼしき男性は、目じりに皺を作って優しく微笑んだ。うん、イイヒトそうだ。

「過去五年程度の各種統計一覧を拝見したいのです。あと、場所を貸していただけるかしら」

 ギルド証を提示すると驚いたように目を見開いて、それから困ったように笑った。

「これは本人以外仕えないんだよ、知らなかった?」

「わたくしのカードですわ」

「君は噂に名高い双黒のお姫様にはみえないな」

 ネッドが一歩前に出ようとしたのを手で制し、男性ににこりと微笑む。

「証明いたしますわ。場所を提供していただける?」

 こういう時は強気で行くべきだ。なめられては困る。堂々と、こちらがただの子どもでないことを証明しなければいけない。

「・・・こちらへどうぞ」

 腑に落ちないという顔をしつつも頷いた彼は、こちらへどうぞと奥の個室へ案内してくれた。個室で私とネッドはかつらをとり、自身を証明すると、あんぐり口を開けた職員が慌てて資料を用意してくれた。

 お茶とサンドイッチのセットまで出てきて首をかしげたけれどネッドが代わりに食べてくれた。

 それから日が暮れるまでとにかく資料を読み込んだ。目が疲れたと言えば、ネッドが呆れたように笑って頭をなでてくれた。

「店が閉まってしまいますよ」

「あらそうだったわ。そろそろ行きましょうか」

 私たちはかつらをかぶりなおしてギルドを出た。何故か職員総出で見送ってくれたのが謎だった。

 そんなことがあったからだろうか、私たちはどうやら悪目立ちしたようで、そのすぐ後に事件は起こってしまった。


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