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これは優しいお話です  作者: aー
   王都で出逢う人たち
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一日早く到着したので

 王子の帰還にともない、王都はお祭り騒ぎだった。

 理由はどうでもいいけど、ただ飲む口実が欲しい人たちが騒ぐのが一般的で、それを目当てに多くの出店が出ることも当たり前の光景らしい。

 ネッドは、普段とは違い柔らかい雰囲気の好青年のふりをしていた。

 とてもよく似合う茶髪に、いつもからは想像もつかないぐらい優しい表情を浮かべている。こう見るともう、ただのイケメンだ。好みかどうかときかれれば全力で押し倒したいぐらい好みだ。

 できればずっとこの姿でいてほしいが、さすがに失礼かと思い我慢した。

 別に普段が嫌なわけじゃないけど、優男風になるとこれまで守ってもらっていたためにポイントが高い。

「そんなにこの顔が好きですか、お嬢さん」

「そうね、格好いいわ」

「・・・それはどうも。じゃあ王都にいる間はこれで通しますね」

「ネッド、あなた最高ね」

「・・・・・・・ああ、はい、どうも」

 一瞬こめかみが震えたように見えたけど気のせいかしら?

「アレクが用意した宿へ向かうの?」

「予定は明日だと奴も判断していることでしょうから、今夜は別の宿をとりましょう。色々経験するのは良いことですよ」

 そうよね! アレクが用意した宿はきっとランクの高いところだろうけれど、私が見たいのは普通の人が泊まるような宿だ。そして宿の食事もぜひ堪能したい!

「適当に入りますが、その前に馬を返しに行きましょう」

「ええ」

 ネッドは旅慣れているのか、手慣れた様子で馬を返しに行った。返す時にチップを多めに支払い、また借りる約束をしていた。

 ネッドのこの様子からいって、無理に人を雇わなくても誘拐犯に間違われることもないだろうし、帰りは極力この姿でいてもらおう。少しでも節約になるだろう。

「お嬢さん、なにか企んでますか」

「ネッドが格好いいから見ていただけよ」

「ほう」

「それより王都についたって父さんたちに手紙を出したいわ」

「それなら明日ギルドへ行きましょう。そのほうが早く届きますから」

 わかったわと頷いて、私たちは手をつないで歩き出した。

 王都は、上から見ると鈴のお尻のような形をしている。真ん中のあたりに大きな川が流れていて、物資の輸送に川を使うことも珍しくないんですって。

 川にはいくつもの橋が架かっていて、けれど平民が渡れる橋は決まっている。

 貴族だけが渡れる橋が用意されているから、そういう橋の前には憲兵が立っている。

 東西南北で行ける場所ももちろん決まっていて、平民が王都へ入るためには南の大門からしか入れない。南西、南東は平民街で、東西、東北は貴族街。王族が住まうのは北の城だ。

 貴族以上であれば西の大門、東の大門からの出入りも許されていて、貴族たちは自身の領地へ帰るのに使用しているらしい。

 王都には平民で構成された憲兵がいるけれど、統率しているのは貴族で、騎士と憲兵が争うことはまずないんだって。

 王族は年に数回王都から出て色々な街をめぐることが当たり前になっている。それは、王族が平民を見捨てないという意思表示や、貴族が独善的な支配をしていないかの確認なのだそうだ。

 今回王子が外に出ていたのはそういう理由だろうとネッドは言った。


 私たちは適当な宿を探し、兄妹ということで一泊することになった。部屋には狭いベッドが二つと、小さなテーブルが一つ。椅子が二つ。角部屋だから外がよく見えた。

 風呂は別料金を払えば使わせてもらえるらしい。狭いが寝るだけなら申し分ない程度だった。壁には王都の地図を模したタペストリーがかかっていておしゃれだ。

 田舎ではこうはいかないだろう。

 夕飯は屋台で適当に食べようとネッドが誘ってくれたので手をつないで外に出る。たくさんの人に圧倒されるが、これが王都では毎日のことらしい。別にお祭りではないと何度きいても信じられない人口密度だ。

 夜でも屋台の明かりが煌々と輝いている。肉の焼ける匂いや、野菜をじっくり煮込んだスープの匂い。これでもかと腹を刺激する匂いにあふれている。なんて素敵な世界だろうか。自然とよだれが・・・いかん、これはさすがにネッドにドン引きされそうだわ。

「ネッド、あの赤いのはなにかしら?」

「甘いお菓子ですよ、お嬢さん・・・って、この格好でこの話し方は目立つな」

「じゃあ、お兄ちゃん、あれ食べたい」

 確かに今の私たちでは悪目立ちするらしい。明らかに兄らしき人物が妹らしき人物にお嬢さん呼びなんて変だ。さっきからジロジロみられている気がしたのは気のせいじゃなかったのか。

 ふむふむと頷きながら顔を上げると、ネッドが口元を大きな掌で覆っていてどうしたのだろうと覗き込んだ。

「お嬢さん・・・とりあえず、この旅が終わるまでそれでお願いします。まわりの目も誤魔化せるでしょう」

「わかったわ、お兄ちゃん」

 私は真剣な顔で頷いた。

 ネッドが耳まで赤くなっていることは見て見ぬ振りした。

 ・・・妹萌え属性だったのかしら? それともたんに恥ずかしいだけ?


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