変装もできる護衛です sideネッド
普段は目立つ短髪にかつらをかぶり、服装も無難なものに変え、普段より柔らかな表情を作るだけで別人になった俺を見て誰もが口を大きく開けた。
本来ならば早朝に出発するはずだったが、騎士のほとんどが酷い二日酔いで苦しんでいたため午後に延期された。それ幸いと変装道具を入手し、俺とリーナは別人になりきる。
リーナには、俺がかぶっている茶髪のかつらと同じものを用意した。女の子用に長い髪を丁寧に結ったものだ。気に入ったのか何度かくるくる回って楽しんでいた。
それを見て復活したアレクがあんぐりと口をあけ凝視する。
「なぜ・・・そんなことを・・・?」
「王都は危険だからな。別人になりきり入ったほうが良いだろうと彼女からの提案だ。彼女はただの遊びで来ているわけではなく、王都の人々の暮らしぶりや環境を確認するために来ている。このくらいの変装は想定内だろう」
目の色までは変えられないが、前髪の長いものを用意したし、帽子をかぶればそうそう瞳の色までは気付かれないとふんでいる。
「し、しかし」
「ということでアレクセイ。ここからは別行動だ。お嬢さんの意思でお前たちが復活するのを待っていたが、さすがにこれ以上は目立つ。先に旅立ってくれ」
「ですが!」
「これは、決定事項だ。お嬢さんを危険にさらすつもりか? いくら王子付きになったとはいえ、お前はまだまだ下端。どのような危険が待っているかもわからないなか、民衆に彼女の姿をさらすマネはできない。なにやら奇妙な宗教が流行っているようだし、そちらが安全であると確認できない限りはこの方針はかわらない」
俺がそう淡々と説明すると、ギュッと口をつぐんで頷いた。
「わかりました。けれど、王都では私が用意した宿泊先をご利用ください。宿の者にはすでに伝えてあります」
「了解した」
アレクから宿の場所を聞き出して頷けば、それでもヤツは何度もこちらを見上げてきた。捨て犬のような顔をされようと、俺たちの行動はかわらないのだがな。
「リーナ、絶対に用意された宿を使って。君の安全はそこなら守れるから」
「わかったわ、ありがとう」
ご機嫌なリーナがいつになく笑顔で応えると、アレクセイがだらしのない顔で笑った。
お前、そんな顔もするのか。ちょっと気持ち悪いぞ。
次にやってきたのは、昨日の件など最初からなかったような笑みを浮かべた野郎だった。
「ではリーナ嬢、また会おう」
「ごきげんよう、殿下」
わかりやすい作り笑いを互いに浮かべ、リーナと王子は別れを告げた。門前で用意された白馬に軽々と乗り込み、爽やかな笑みを浮かべたまま去っていった。
アレクセイは最後に一度だけ振り返りリーナを見つめたが、すぐに前を向いて走り去った。
「いいんですか、お嬢さん」
「これでいっぱい、美味しいものが食べられるわね!」
鬼だ。でも笑顔が可愛い。
「じゃあぼちぼち行きますか、とりあえずこの街の名物も見つけておいたんで先にそっちを頂きましょう」
「さすがね、ネッド!」
いつになくテンションが高い。まるで本当に普通のお嬢さんだ。
手を差し出すと当たり前のようにつながれる手は温かく、俺の口元も自然と弓をつくる。
変装した姿で街を歩く俺たちに目を向けるものはない。中の良い兄妹が歩いているだけに見えるだろう。
リーナを無遠慮に見るものも、俺を誘拐犯のように見るものもおらず大変歩きやすい。
リーナに、肉とトマトのパイ包を買い与え、馬を借りると二人で移動を開始した。
これで今夜中には王都へ入れるだろう。
馬は王都でも同列店に返却可能なので便利なシステムだ。
「おいしいねえ、ネッド」
「それは何より」
いつまでもニコニコ笑っているリーナに、俺は初めてこの旅に出てよかったと思えたのだ。




