なんか変なことになっているらしい
ネッドが言うには、私を生き神様のように崇める貴族が増えているそうだ。
主にアレクのせいなのだけど、彼の言葉をうのみにして私を崇め奉る連中がじわじわと増えていることが少々問題になっているとか。
商会で売り出されている私の絵姿をこぞって貴族が買いに来ることも当たり前になっているらしく、今回王都へ訪れることもすでに知れ渡っているとか。
どれだけの規模に発展しているのかはわからないが、面倒なことになる可能性が高い中無理に行く必要はないとネッドは言った。
「王位継承権を持つ相手と王都へ入れば嫌でも話題になります。そうなれば逃げられません」
「やはり行動は別にするべきよね。私も王都名物は制覇したいし、下手に有名になりすぎると街歩きがしにくくなるわ」
噂に聞く王都名物。すべて食べきれるかしらと食い意地の張った意見をのべると呆れを隠さない瞳がひたと私を見据えた。
あらいやだ、怖いわ。
「・・・食べ物のことはなんとでもしてあげますが、おかしな動きをする人間が必ず近寄ってくることを覚悟してください」
「そうね、あなたに迷惑をかけることは間違いないわ」
「俺はあなたのものなのでそれは全然いいですが、うっかり相手を殺してしまうかもしれません」
うっかりなのに全然かわいくないわ。
「そうなるのは避けなくちゃいけないわね。でもここまで来て収穫があまりないのも・・・ねえ、ネッド。王都へ入る前に変装の道具とか手に入るかしら? 私の顔は知られている可能性が高いんでしょう?」
「・・・わかりました、探します」
何やらあきらめたようなため息をつかれたけど、まあいいか。
「お願いしますね」
「・・・さあ、もう休んでください。今日も疲れたでしょう。夜更かしは体に悪いです」
ネッドは私の体を抱き上げてベッドへ運んだ。慣れた手つきで柔らかな布団にそっと横たえた。
この旅で私たちの間に遠慮なんてものは消滅している。たとえこんなふうに暗い部屋で、それもベッドで二人きりになっても、おかしいな空気になることはないのだ。
ネッドはたぶん、私が子どもでないことに気付いているけれど深くは聞いてこない。彼との距離が心地よくて、なによりとても安心できた。
大きな掌が私の瞼にふたをする。ひんやりとしたそれの重さが安心感をくれた。
疲れていたのか、眠りはすぐにやってきた。ネッドがいるから最悪のことは起こらない。こんな安心感はアレクにはない。アレクは私にとって優しい兄のような存在だ。隣にいてくれれば確かに心強いけど、今は彼の隣に立つのが怖い。
このまま王都へ入ればなし崩し的に彼の婚約者として認識されるのではないか。それはお互いにとって本当にいいことなのか。
考えることは山ほどあるはずなのに、ネッドの掌が心地よくてそのまま意識を手放した。
だから、彼の囁きが私に届くことはなかった。
「俺があんたを守ります、あんたがアレクと夫婦になりたくなきゃ、俺が邪魔してやる。王族があんたを傷つけるなら、ずっとあの森に隠れて暮らしてもいい。あんたは、俺に守られててくれ。もう、傷つかないでいてくれ」
絞り出すような声が部屋にむなしく響いた。




