とりあえず飲ますか sideネッド
お嬢さんとアレクセイがくっついているのを影ながら見ていた俺は、二人が別れた後でお嬢さんが部屋に戻るのを確認してからアレクセイの部屋に向かった。
そこには、壁に顔を向けて膝を抱えて落ち込んでいるやつを慰める他の騎士たちの姿があった。
俺が入った瞬間ギョッとしたよう立ち上がるが、手に持った酒を見せると無言で距離をとった。
「アレクセイ」
「・・・・・・ネッドさん、リーナは、私じゃなくてもいいんでしょうか」
「とりあえず、まあ、飲め」
「ずっと私を想っていてくれるのだと勘違いしていました。彼女は在りし日のことを私が悔やんでいるから愛を向けたと思い込んでいたようです」
そうだな。みんな知ってたけどな。
「このリボンの意味を、彼女は本当に理解しているのでしょうか」
「それは奥さまが指示なさったからな。知らないんじゃないか。それなのに王都から来た人間にお前の婚約者だと崇められて困っていたぞ。お前、王都で一体何をしているんだ」
隣に腰を落ち着けて酒瓶を開ける。酒になれた大人でも一杯で酔っぱらうかなりヤバイ品物だがこういう時こそ飲むべきだろう。
「それにしても見事に切り抜けたな。機転がきくのはさすがた」
「見ていたんですか」
「俺はお嬢さんの護衛なんだから当たり前だろうが」
酒に心当たりがあったのか、気が利く騎士の一人がショットグラスを持ってきたので遠慮なく借り受ける。
「私はリーナを愛しています。一目見た時から。それなのにその気持ちを疑われるどころか信じられてさえいなかったなんて」
「そりゃあお前さん、ずっと会ってなかったんだし仕方ないだろうが」
「あのイカレた奴の件があったからなんて、そんなのは後から発生しただけなのに! そりゃあ悔しかったですけど!」
「ほら飲め」
強引に口に一杯流し込めば、次の瞬間には意識を飛ばして寝やがった。
「ガキにはきつすぎたか。まあこれぐらいのほうが可愛げがあっていいだろう」
「ちょっとやりすぎではないか?」
昼間廊下で蹴り倒した騎士の一人がおずおずと話しかけてきた。
「このぐらいでちょうどいいだろ。ガキがごちゃごちゃ考えすぎなんだ。あんたも飲むか?」
アレクセイに使用したグラスをそのまま使い、俺も一杯飲んだ。
喉が焼けそうなそれを続けざまにもう一杯いく。
「・・・ちょっともらっていいか」
興味があったのか、騎士は仲間にたしなめられつつ俺のグラスに手を伸ばした。
「ああ、結構うまいぞ」
「それにしてもあんた強いな。あんなに強いのにどうして護衛なんてしているんだ? あんたなら王都へ来ればすぐに出世できるぞ」
「俺は今の俺に満足してるんで。それに出世とか面倒だからいいよ」
「なんだそれ、変わったやつだな」
はは、と笑いながら気付けば他の騎士たちも俺の酒を求めてやってきた。
ちなみにこの酒、ラベルは市販のものだがベルノーラ商会御用達のちょっと変り種。慣れてない奴はすぐに酔っぱらってその時の記憶をなくすため、情報収集にはもってこいなんだ。製造方法を知っているのは商会でも一部の人間だけで、使っていい場所も限られてるんだけどな。
あのヤバそうなオウジサマのこととか、アレクセイのこととか、リーナがどのようにみられているのかとか、色々聞きだした俺は満足して部屋を後にした。
向かう先はリーナの部屋だ。
小さなノックを三回して音もなく侵入すると、絹糸のような髪をなびかせた彼女は窓辺に腰掛けて俺を見上げた。
「お酒臭いわね、ネッド」
「すみません。かわいい後輩を慰めておりました」
リーナは興味がなさそうにふうんと頷いた。
「ねえ、ネッド。わたし今夜話してみて、余計に混乱したのだけどどうすればいいかしら」
「俺はやはり街に戻るべきかと。あなたにとって良い経験になるは間違いないと思いますが、王都が安全ではない可能性が出てきました」
「どういうこと?」
俺は、先ほど聞き出した話を彼女に聞かせた。




