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これは優しいお話です  作者: aー
10歳 旅
60/320

お茶会と王子さま

 田舎ではめったにお目にかかれないだろう高級茶葉を使った香高いそれを置き、質問の回答に一瞬悩んだ。だが相手は腐っても王族、嘘をつくのは得策ではないのだろう。

 部屋の中には二人の護衛兼見張り。逃げることはできない。

 というか、ジロジロと遠慮なく人の胸元を見るのがこの国の王子さまとか、かなりドン引きなんだけど。

「十五になります」

 一瞬目を見開くとさらに失礼な一言が。

「サバを読みすぎじゃない?」

「わたくしは、とある森で拾われたのですが見た目が七つくらいだろうと、その年齢で登録されました。ですので、書類上は十で間違いありません」

 護衛たちは一瞬身じろぎしたようだったけど、すぐに落ち着きを取り戻したようだ。しかし王族の護衛がこんなことで動揺するなんて大したことはないんだなと場違いなことを考えた。

「それにしても落ち着いているね」

「恐縮です」

 そりゃあね。いろいろあったからね。前世での年齢を考えると実際はさらに上だしね。

「君は、アレクとどうなりたいの?」

「アレクに対する恋愛感情は今のところ持ち合わせておりません。わたくしは商業ギルドに所属しており、それなりの稼ぎがございます。はっきりと申し上げると、一人でも生きていける程度には蓄えもあります。アレクがいくら騎士として名をはせたとしても、わたくしには大した意味はありませんの」

「それ、アレクが聞いたら泣いちゃうよ?」

 想像できないけど。

「アレクはわたくしから見ても優良部件です。彼を望む貴族は多いのではありませんか?」

「そうだね。毎月どこかしら声がかかっているよ、全部断っているけどね」

 あんな優良物件放置とかないよね。わかるわー。でもさ、冷静に考えて婚約とか早すぎない?

 もともと貴族だったアレクとしてはこのぐらいの年齢で婚約はありなのかもしれない。でも私は一般人だ。さすがにドン引きである。

「殿下。わたくしは貴族ではありません。今のアレクの立場を考えると、将来わたくしが彼の妻に収まることは現実的ではありません」

「君がこの国の貴族じゃないから?」

「はい」

 正真正銘前世含めて一般人ですが何か。

 思い切り胸をそらして頷けば、なぜか微妙な顔をされてしまった。

「ふうん。じゃあどこかの貴族に君が養子入りすればその問題は解決できちゃうね。君の優秀さは有名だし、君を娘にと望む貴族は多いだろう」

 やだやだ、なんて俗物的な。

「それはすべてお断りいたします。わたくしの父はラティーフ・ボフマンだけ。あの恐ろしい森で命を顧みず救ってくれたのはあの人だけです。今更他の人間の娘などなれるはずがない。わたくしの願いは先ほど申し上げたとおり平和な日常ですもの」

「その平和は簡単に壊せると思わない? 相手が貴族なら後ろ盾を持たない君に好き勝手できるよ。例えば君じゃなくて君の大切な人を遠回しに人質にすることは簡単だよね?」

 いやな男だ。でも、貴族ならばそのくらいはするかもしれないと思ったらとたんに怖くなる。

 奥歯を噛みしめてぐっと押し黙る。

「でも君がアレクの奥さんに収まれば、そんな馬鹿な考えを捨てる人間は少なくないと思うなあ」

それはそうかもしれない。

「けれど殿下」

 一度深呼吸をして彼を見据えた。ここで頷いたらこいつの思うままになりそうで悔しかったのだ。

「それでは、今までと何が変わるのでしょうか。そんなふうに結ばれたとして、ほんとうにアレクは幸せですか?」

「君や君の大切な人が平和に暮らせるなら彼は幸せだと思うよ?」

 そうかもしれない。でも、

「わたくしは、幸せにはなれません」

「どうして?」

「当然です。若かりし正義感のみでわたくしを妻にしたところで彼はいずれ気づくでしょう。それは偽物の感情だと」

「かわいいね。本当に心から愛されなきゃ夫婦になれないって?」

 ああもう、悪いかこんちくしょう!

 わたしだって幸せな結婚生活を夢見るお年頃なんだよ!

 かわいいってなんだ、馬鹿にしないで。

「わたくしは貴族ではありません。ここにいる皆さまはお貴族様でしょうが、わたくしはただのリーナ。愛を求めて何がおかしいのでしょうか?」

「ふうん。ただのお嬢さんねえ、いくら豪商の後ろ盾があって、ある程度の教育を受けていても“ただの”お嬢さんだからわたしたちとは違うって言いたいんだ?」

 にやにやといやらしい目つきをする男を、思わず睨んでしまう。いけない、これでは不敬罪だ。

「ねえ君、気付いている? 君の立ち居振る舞いは決して平民のものではない。あの森で拾われる前は何をしていたの? 君、貴族の生まれだよね?」

「違いますけど」

「え」

「え」

 なんで決めつけるのよ、あんた。なにその信じられないって顔。

 思いっきり顔をしかめて王子さまを見れば、本当に信じられないって顔で私をマジマジとみてきた。ちょっと気持ち悪い。

 そんな時だった。わたしたちが居た部屋のドアが蹴破られたのは。


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