贈り物がうざい件 sideラティーフ
ここ数日毎日ギルドマスターから個人的に贈り物を渡されている。
初めてギルドで手渡された日は何事かと驚いて固まってしまった。
「リーナに渡してくれ。お前の事だ。どうせ女の子の服なんて用意していないんだろう」
そう言って手渡されたのは確かに女物の子どもの服だった。
「親戚からもう着ない服をいくつか譲ってもらったからな、遠慮はいらん」
「そ、そうか、悪いな。助かるぜ」
「いや、じゃあな」
初日はそれで終わった。
リーナもとても喜んだみたいだし、ギルドマスターも良い奴だったんだなと見直した。
だが。
「・・・・またか? この前も貰ったが・・・」
「馬鹿を言え! この前のは普段着だろうが! 今度のは星祭用のドレスだ!」
「星祭には大家のばあさんが作るって言ってたぞ」
「いいからこれを持って帰れ、あと普段にも使えそうな子どもの道具などをいれてあるからな。ああそうだ、このことはリーナには言うなよ」
「は? なんでだ?」
俺より頭一つ分大きい男がふん、と胸をはった。
「俺は陰ながらリーナを見守り隊の隊長だからな!」
こいつ、仕事のしすぎで頭おかしくなったんじゃねえのか?
少し心配して見ていたら、他の何人かのギルド職員が「実は自分もメンバーなんです」と自己申告してきた。
色々大丈夫か、ここは・・・・・
意味が分からないので、しばらくリーナをここに近寄らせないでおこうと心に決めた。
「むっふっふ~ん」
翌日の事だ。
気色の悪い笑い声が近くで聞こえて思わず振り向いてしまい後悔した。
普段誇り高いギルドマスターを自称している野郎が、にやにやと垂れ下がった頬を隠すことなく俺に見せつけている。
「じゃあな」
「待て、まだ何も話していないだろう!」
「ちっ」
最近、こいつのせいで俺の態度が一段と悪くなりリーナに悪影響を与えていないか心配になる。
「で、今日は何だ」
「実はな。昼間にな」
ああ、面倒臭ぇ。
「さっさとしてくれ、外でリーナが待ってるかもしれんのだ」
俺は簡単な仕事から帰ってきたばかりで、換金を済ませて今日の買い物に行きたいのだ。
早くいかなければ市場には残り物のクズ野菜しかなく、リーナががっかりするから。
「むっふふふふふふふふ。よく聞け。実は昼間にリーナが来たのだ」
「リーナが・・・? 昨日の夜、しっかりと変態には近づくなと言っておいたのにどうして」
「ちょ、俺のことを変態とか言うな。いや、今はその話は良い。でな、リーナがな、いつもありがとうございますと言って俺にお菓子を届けてくれたのだ!」
・・・ほう、礼にきたと。我が娘ながらしっかりした子だと感動してしまうが、いかんせん変態に近づくのは良くない。
「なんとそれも手作りだ! 素朴な味わいだがこれがまた癖になる!」
そう言って、変態もといギルドマスターは俺にハンカチに包まれた不格好な菓子を見せつけてきた。所々焦げているが、なるほどほのかに甘い匂いがする。
「そうかよ。まあ、いつもリーナの服とかは感謝してるぜ」
「いいってことよ! ああでもなあ・・・・」
さっきまでの気色の悪い笑みをひっこめ、まるで葬式のよう死んだ顔をされて驚いた。
「リーナがな。もう服や贈り物はやめてほしいと言ってきたんだ」
「ほ・・・ほう・・・?」
「十分気持ちは伝わったから、こんなにしてくれなくていい。必要以上に甘やかさないで欲しいとな。なんだあの可愛い生き物は。天上に生きるときく天使か? それとも精霊? もう可愛いだろう」
支離滅裂すぎてよくわからないが、とりあえずプレゼント攻撃をやめろと言われたらしい。
「まあリーナはしっかりしているからな」
「ということで、俺は、いや俺達見守り隊は緊急会議の上決めたのだ」
なにを、と問うべきだろうか。いやききたくない。
「そう!」
びくっと震えてしまうのは条件反射だった。
「定期的に送るのが駄目なら記念日を作ればいいのだ!」
「・・・・・記念日?」
「ほら、星祭とか誕生日とか建国記念日とか色々あるだろう!? その日に贈り物をするならば全然かまわんと思うのだよ! あばよくばお返しも貰えるかもしれん!」
最後が一番の本音だろうが。
だが俺は別の事を気付いてしまった。
「あー・・・リーナの誕生日な・・・・うん。そうだな」
「でだ。まず教えろ。リーナの誕生日はいつだ!? もしかしてすぐなら急いで緊急会議をっ、きちんとみんなでプレゼントを選ぶぞ! ああ、安心してくれ。リーナの十六の誕生日には成人祝いも考えているところだ!」
気が早すぎてどこから突っ込めばいいんだ俺は・・・
「リーナの誕生日についてはだな」
その発言の後、俺はギルドマスターと見守り隊とかいうふざけた集まりの連中に一発ずつ殴られることになった。