遠征 sideアレクセイ
王子付になって年に数回は地方の見回りを遠征という形で行っていた。
元々王位から遠い王子だ。雑用も彼の仕事なのはわかる。
「アレク、ちょっといいかい?」
口元を引くつかせた王子が恐る恐る声をかけてきた。
「何でしょうか殿下。ああ、先日の見合いならお相手の方と直接話をして円満にお断りいたしました」
「うん、それは君の自由だから勝手にしなさい。そうじゃなくてね」
「遠征の件でしたらお断りします。そろそろリーナがやってくるはずの時期なんです。連絡を受けた日から逆算して、早ければ二週間後には王都近くまで来られるはずです。今この時期にここを離れたくありません。だいたい、毎回なんだかんだと遠征の日程を伸ばしまくっているあなた様に同行したら、私はリーナにいつまで経っても会えないままです」
一息に言い切ると王子がしゅんとうなだれた。
「しょうがないじゃないか、行く先々でいろんなことが起こるし、前回伸びた理由は君にも原因があっただろう? 気に入らないからと言って、いちいち現地の騎士たちからの喧嘩を買うなんて子どものままだよ?」
「私のリーナを侮辱したので相応の報いを受けさせたまでです。殿下だって、いちいち女性たちとデートする必要はないはずです。ご婚約者の方に愛想をつかされても知りませんよ?」
「しょうがないの。そういう役回りなの!」
互いに言い訳ばかりで平行線をたどっていた私たちを止めたのは一つの知らせだった。
「え? リーナがもうあの街に来ている? 予定よりだいぶ早いようですが・・・」
斥候にリーナの様子を探らせていたら、すでに森を抜けているという報告を受けて驚く。森の先の街については中々情報が集まらないのだが、森さえぬけてくれれば如何様にもなるのだ。隣にいる高貴なお方がドン引きしていようが構わない。
「君さ、わたしの大事な部下を何に使っているの?」
「もちろん、リーナの安全が最優先ですから、街に潜ませておりました」
「いや、君のじゃないよね?」
「私の士気に関わる重大事案ですので」
「あ、もういいです」
何やら納得してくれたようなので放置し、その間にリーナに起こった事実を聞いた。
「わかりました、とりあえず生き残った冒険者二人の始末はギルド長たる坊ちゃまに任せ、リーナの保護に向かいましょう。きっと疲れ切っていることです。すぐに迎えにいかなくては」
ついでとばかりに隣に立っている唐変木・・・ではなかった、高貴なお方に顔を向ける。
「遠征にお付き合いいたします」
「どうどうと王都を出る理由を作らないでほしいけど、まあいいや。じゃあさっそく準備してくれる?」
「はい、明日の朝には出立できるように手配いたします」
「え? そんなに急がなくていいよ。みんな困るだろうし」
「いえ、私のリーナが、私を待っているはずですので速攻面倒な視察を終わらせてリーナを迎えに参りましょう」
おや、なぜ後ずさるのでしょうか。
「ま、まあ、君がやる気を出すのは良いことだよね、うん、たぶん・・・たぶん・・・」
よくわからない独り言をつぶやいて、彼は執務室を出て行った。
部屋に残った斥候に指示を出して明日の朝一番で王都を出る手はずを整える。
待っていて、リーナ。
私は何者からも君を守ろう。そのために強くなったのだから。




