悔しさともどかしさ sideネッド
体力的にかなりきつかったのは事実だ。普段なら我慢できることも、なぜかこの時は我慢が出来なかった。
職業柄どんな罵声も拷問も耐えられるつもりだった。
だが。
「さっきあんたらの街のギルドと連絡を取ったところ、そいつらが街に引き返したことが判明した。現在、ギルド内で処分を検討しているらしい。ただ、ずいぶんと魔物とやりやったらしくてな。話ができるのは女とリーダーぐらいだそうだ」
やけに体の大きい爺さんが無理やり話に割り込んできやがった。
きっとこいつも元冒険者だろう。冒険者ってのは考えるよりまず動くやからが多くていけない。もう少し頭を使えってんだ。
「で?」
そもそもあんな連中がどうなろうが知ったことか。リーナのおかげで安全だったんだから、いなくなれば魔物たちが喜んで襲ってくるのはわかっていたことだ。
「なんであんたらと別れたのか、向こうのギルドで激しく追及を受けたらしい。そりゃあそうだよな」
「だからなんだ」
あちらのギルド長はあの方だ。普段リーナの前ではいい人ぶっているが、その役目にふさわしい力と頭脳を持っている。ただでさえリーナが関わっているのに許すはずがないだろう。
「兄さん、一つ答えろ・・・・あのお嬢ちゃんは、本当に人間なのか?」
頭の中で何かが切れたような音がした。こんな経験は今までなかったので何が起こったのか自分でも分からないが、気づけば爺さんを締め上げていた。
腰に隠したナイフを抜かせないよう、カウンターに座っていた別の爺さんがあわてて俺の腰を掴んだ。
ちっ、これじゃあ抜けないじゃないか。
「もう一度言ってみろ。彼女に同じことを言ったらてめえら全員ぶっ殺すからな」
低く唸るように言えば、爺さんは目を見開き、そしてまずい薬を飲まされたような顔で俺から目をそらした。
椅子が倒れる音を聞いたのか、リーナが階上から降りてきたのはそのすぐ後だった。
「まあネッド、おじいさんに暴力なんていけません」
場違いな言葉に一瞬肩の力が抜けた。
「手が滑っただけですよ」
「いけません。今すぐおやめなさい・・・ネッド、わたしは喉がかわいたの」
俺が爺さんから手を離すと、リーナは褒めるように目を細めた。
「お茶は、一人じゃいやなの」
「・・・・はい」
「だから、はやく一緒に行きましょう。終わったのでしょう?」
いやむしろ、全然進んでいないのだが。
「細かい話は・・・もう少し」
小さな、呆れるようなため息が聞こえた。
「ネッド、あとはギルドに任せます。いいですね? あなたの役目はわたしの護衛であって、悪い子におしおきを与えることじゃないでしょう?」
お、おしおき?
俺がこの爺さんたちにお仕置きしてんのか? 悪い子ってこんな老人相手に?
「おしおき・・・悪い子・・・」
「お茶にしましょう? その間に、新たな護衛を探してもらえばいいわ」
小さな白い手が延ばされた。思わず彼女のそばへ駆け寄る。
「ネッド、足が疲れたわ」
普段絶対に言わないだろう我が儘。俺にだけ向けられるそれに優しさと甘さを覚えた。
「かしこまりました」
小さな体が俺に抱き上げられると、わずかにほっとした気配に多少の罪悪を覚えるが、それ以上に優越感もある。
こんな風に甘える相手なんて、この女にはほとんど存在しない。そんな特別な存在に俺はなれたのだろうかと疲れた頭で考えた。
だが次の瞬間違うと気づく。
「ありがとうネッド、わたしは大丈夫よ」
守られているのは、俺の方だったのだと。




