達成されなかった依頼と少女 sideギルド職員(退職組)
その女の子は俺の孫と同じくらいに見えた。
だが落ち着き払った様子と、知性的な目が同じではないのだと直感する。
なにより黒い髪と瞳が見慣れた魔物の記憶を呼び起こす。
思わず立ち上がった俺たちは、けれど必死に違うのだと自分に言い聞かせて腰を落ち着けた。
「・・・つまり、依頼は未達成のままということですかな」
「はい、お渡しするはずだった料金から、距離と日数分を引いたものをお渡ししました。本来ですとギルドを通して渡すのが筋と思いましたが、なにぶんわたくしたちも危険を承知で森に入りましたので、生きているうちに渡したほうが良いと判断しました」
にこりともせず、淡々と話す様子に思わず呆然とする。
「お二人だけで抜けられるのに、なぜ人をお雇いに?」
「わたくしたちは、二人だけで抜けるつもりは毛頭ございませんでした。しかし依頼は途中で破棄されました」
「本日は、そのパーティーを訴える為に?」
「いいえ、依頼内容の変更を。途中までは頑張ってくれましたし」
女の子のすぐ後ろに立つ男をちらりと見上げると、思い切り顔をしかめている。
「お嬢さん、発言いいですか」
「まあ、ネッド。どうぞ? めずらしいわね」
「お嬢さんは上で一休みしててください」
「そういうわけにはいかないわ。わたしの名前で彼らを雇ったのだもの」
「お嬢さんは、上で、一休みです」
ずいぶんと強引な言い方だが、絶対に引かない態度に女の子はふと笑った。
「わかりました。喉が渇きましたし、わたしは少しお休みをいただきます」
何を言ってるんだと思ったら、女の子が商業ギルドの人間であるカードを差し出してきた。
「少し、上のギルドも拝見してもよろしいですか?」
この街のギルドは一つの建物に二つの組織を入れている。多くの街ではそれぞれ別にしているそれを一つにしたのには、街の土地に余裕がなかったことと、商業ギルドと冒険者ギルドでは微妙に人が訪れる時間帯が違うのでトラブルが起こりにくいこと。
まあ、他の街から来た連中には驚かれるがな。それにしてもこんな小さな体で商業ギルドに入っているとは・・・さすが、普通じゃないな。
変に感心していると、目の前の男の殺気に気付いた。
「本題に戻る。彼女はあいつらを許す気でいるようだが、俺は森であったことを許すつもりはない」
「その件だがな、兄さん。ちょっといいか」
俺の同僚が急に割って入った。それも体をねじ込むという物理技だ。
なんせ現在この冒険者ギルドには引退した元冒険者しかない。もともと平和とは無縁のギルドだからな。ほかの街では若い連中を雇うことも有るだろうが、森の側のこの街はいつでも死んでいいやつしか雇われない。
孫が出来て引退した俺や、怪我で引退したやつ、理由は様々だがひとたび森で何か起これば他のやつのために死ぬ覚悟はできている。
「さっきあんたらの街のギルドと連絡を取ったところ、そいつらが街に引き返したことが判明した。現在、ギルド内で処分を検討しているらしい。ただ、ずいぶんと魔物とやりやったらしくてな。話ができるのは女とリーダーぐらいだそうだ」
「で?」
「なんであんたらと別れたのか、向こうのギルドで激しく追及を受けたらしい。そりゃあそうだよな」
「だからなんだ」
「兄さん、一つ答えろ」
俺の同僚は、男の殺気を受けても睨み返す勇気があるようだ。俺はさっきから怖いんだが。
「あのお嬢ちゃんは、本当に人間なのか?」
男の殺気が、目に見えてわかるようだった。




