森を抜けた先で
森を抜けたのは、わずか三日後だった。
ほんとうに、驚くほど魔物に襲われなかったためだそうだ。通常ならば早くても二週間はかかるそうだから、これは異例のスピードだろう。
ネッドはいつも通り淡々とした表情で、時折言葉を交わしながら進んでくれた。まるで彼らのことなんて最初からなかったかのような態度には救われた。
毎日水浴びをさせてくれたし、ご飯も乾パンや干し肉とか美味しくないものだったけど、平和な時間だった。
ネッドは事あるごとに「お嬢さんの特異体質は有難いが絶対に隠すように」と言った。王都には怖い人たちがいて、そういう体質の人間を捕えて研究に使うのだそうだ。
わたしは何度も頷いた。
森を抜けた先には少し大きな街があった。
街の名前はエタンセル。輝くという意味があるそうだ。新しい街だけど、家々のつくりはどこも同じなのか、あまり新鮮には映らなかった。
この街にも冒険者ギルドがあるから、ネッドは寄りたいと言った。彼らの件を処理しなければならないからだ。
もちろん異論はなかったんだけど・・・
「ネッド、なんだか見られているわ」
街に入る前にはちゃんとフードをかぶったので、見られているのはわたしじゃない。なぜかネッドがジロジロとみられており、彼はうっと呻いた。
「こうなると思った」
「どうして? ネッドは良い人よ」
「お嬢さん、とにかく冒険者ギルドに行きましょう。今すぐ」
何に急かされているのか、彼は森の中以上に急いだ様子で街を突っ切った。
どの街の冒険者ギルドも、街の中心に設置されることが多いらしく、この街も例外ではなかった。
わたしは小脇に抱えられて流れゆく街を横目に彼を見上げた。
その頃には、
「人さらいじゃないかい?」
「どんな関係だ?」
「憲兵に通報を」
という街の人々の囁きが流れて来て、ネッドが冒険者を雇った本当の理由がこれだったことに気付いた。
「誤解を解くにはどうすればいいのかしら?」
「舌噛むから喋らないで!」
いつになく焦った様子のネッドがなんだか面白かった。
冒険者ギルドの建物は見慣れたものと同じだったけど、中にいた職員はほとんどが老人で、私とネッドを見て思い切り眉を寄せていた。
「人さらいか?」
「ふてぇ野郎だ」
「あんた、覚悟できてんのか?」
職員とは思えない柄の悪さにネッドの顔もひきつっている。
「ネッド、おろして」
「あ、はいはい、すいません」
ネッドは素直に私をおろしてくれた。
中を見渡すと、職員以外の人はいないようなのでフードを取り去る。
「こんにちは、依頼の件で伺いました」
職員たちが無言で立ち上がって、それからゆっくりとまた腰を落とした。




