自称パパ現る
「おい、ギルドマスターさんよ。あんた俺の娘捕まえといて何ふざけてんだ? ああ?」
私は突然現れた男に抱き上げられて「娘にする」発言に驚いたのだけど、少し離れた場所からラティーフの低い声が届いた。
あれ。今度はこっちに怒ってる?
「ゆっとくがな、リーナはすでに俺の娘として申請して通ってんだよ。正真正銘俺の娘だ。てめえにくれてやるわけがねえだろうが、ああ?」
ラティーフ、なんだか今日は口が悪いような・・・いやいつもぶっきらぼうだけど。
って、ちょっとまって。今なんか大事なこと言わなかった?
それってつまり、養子縁組が成立してるってこと?
「ラティーフさん・・・リーナの、おとうさんなの?」
ラティーフがわずかに照れたように目元を赤くして、ぶっきらぼうに「おう」と答えた。
なんか、知らん間に家族になっていたようだ。
いや言おうよ、それ結構大事な話じゃないか!?
「ラ・・・・・・おとう、さん?」
こてんと首をかしげると、ラティーフが両手で顔を覆って震えだした。いやどうしたのよ!?
「うわあ・・・お前そういう奴だっけ。気色悪いな」
なんか近くでアーシェって人が呟いたけど聞かなかったことにしよう。
「どうしたの、おとうさん。ないているの? リーナが、いけないの?」
いままでラティーフがこんな反応をしたことはなかった。どうしたというのだろうか。
「どこかいたいの? おいしゃさまに、みてもらう?」
「いやまあ、痛いっちゃあ痛いわな」
アーシェがそう言うので、思わず髪の毛をがしっとつかんだ。
「いたっ」
「アーシェおじちゃまが、おとうさんをいじめているの?」
「いやいやいや!? そんなことしない! 俺は誇り高いギルドマスターだぞ!?」
「じゃあ、どうして泣いているの?」
「あー・・・感動してるんだろう。はじめて君に父親として見て貰えて」
なんだって?
感動して顔を隠して震えながら泣いていると?
なにそれちょっと面白・・・じゃなかった。結局私が原因じゃないか。
アーシェに下してもらい、とことことラティーフの所まで歩いていく。
「おとうさんって、呼んでいいの?」
「・・・・ああ、俺はもう、お前の親父なんだからな」
この世界で初めての家族が、本当に家族になっちゃった。
年甲斐もなく(今は子どもだけど)本当にうれしくて、思わずぎゅうっと抱き着いた。
「うん、ありがとう」
ぱちぱちと、どこからか手をうつ音がして顔をあげるとアーシェが手を叩いていた。
「おめでとう、リーナ」
とても暖かな瞳で私を見つめるアーシェは本当にいい人なんだろう。
「おめでとう、ラティーフ」
「・・・おう、ありがとうよ、ギルドマスター」
ラティーフも嬉しそうだ。
「そしておめでとう、俺!」
・・・・・・・は?
「こんなに愛らしい娘ができるなんて、なんて幸運なんだ、俺! さあリーナ。遠慮せずに俺のことはパパと呼びなさい!」
・・・・へ?
茫然としていたらラティーフや、いつのまにか来ていたらしいラティーフの友人であるフェリコスとアレグリが思い切りアーシェを殴りつけていた。
「俺らの可愛いリーナに変態発言かましてんじゃねえぞ!」
「てめえ、俺らの可愛いリーナの耳が汚れるだろうが!」
えーと・・・まああれだ、見なかったことにしよう、うん。
「ら・・・あの、お、おとうさん。おなかすいた」
言外に早く帰ろうと伝えると、ラティーフはああ、と頷いて私を抱きかかえた。
「グリノラ。次、俺の娘をけなしたらてめぇは敵だ。覚えとけ。俺の大事な家族を侮辱すんじゃねえぞ」
まるで視線だけで人を殺せそうな怖い顔をして、最初の男にそう言ったラティーフは、もう二度とその人を振り返らずに歩き出した。
グリノラと呼ばれた男は茫然としていたけれど、寂しそうに瞳が揺れていて、いつまでもラティーフを見つめていた。
そうか、きっとこの人は寂しかったんだろう。だからあんな言い方をしたのかもしれない。根は悪い人じゃなかったのかも。
私はそんな印象を受けたのだった。