無限の森
久々に足を踏み入れた無限の森は、この旅の工程で最も危険な場所。
この森を抜けないと王都には行けない。以前はかなり時間をかけて抜けたけど、今回はそう時間をかけられない。
ネッドに、絶対に自分のそばを離れるなと言われた。トイレの時も一定の距離以上は離れない約束だ。
・・・わたし、女の子なんだけど。恥ずかしいんだけどなと思っていたら何故か鼻で笑われた。解せん。
この森の思い出といえば、変な男たちに拾われたけど捨てられて、そのすぐ後に父さんに拾ってもらえた。
みんなは怖いところだというけれど、私にとってはその思い出のほうが強くてあまり怖くはない。
「ねえ、ネッド。この森はどうして危険なの?」
無限の森に入って一日目のことだった。
わたしの横を歩くネッドに小声で問いかける。
他のメンバーはこの森に入る瞬間から緊張した面持ちでいるため声をかけにくいのだ。
そんな場所なのだと改めて気付く。
でも正直、こんな雰囲気でちゃんと森を抜けられるのかな?
「・・・普通は強い魔物が出る場所はたいてい決まっていて防衛も難しくないんですが、この森ではそのようなことがなく、いつ襲われるかわからない危険性が高いため皆怖がります」
「でも、強い魔物がいたるところにいると、エサがなくなっちゃうんじゃない?」
「そうでもないです。最悪時々共食いとかしてるし、なによりも弱い魔物は生まれやすいのでいくらでも食べれます」
なにそれ怖い。というか変じゃない?
なんで弱い魔物は生まれやすいの? まるで食べ物の提供みたいな・・・
強いと生まれにくいとか? でも共食いすることもあるなんて・・・
「ネッド、この森に来たのは久々なの。わたしは、どうすればいいの?」
「最初に言った通り離れないでください」
いやいや、それ以外に注意事項とか!
「とりあえずお嬢さんなら担いで逃げられますから」
「わたし、彼らを雇った意味はあったのかしら?」
「あります。お嬢さんの護衛をしながら食事の準備は俺が嫌です」
聞くんじゃなかった。
でも確かに、どれだけ大変でも食事は大事だ。子どもの面倒を見つつ食事なんて大変よねと思い、ハタと気づく。
いや、食事って非常食ばかりだからそう面倒はないのでは・・・?
「それに、何かあったらあいつらを盾にして逃げれます。時間を稼ぐのは大事です」
こいつ、鬼だ。
「お嬢さんはとにかく、この森の中では何が起こるかわからないとだけ認識していてください」
「わかりました」
まあ、気を付けるに越したことはないわよね。
私は気を引き締めて一歩、また一歩と足を進めた。
ネッドの本音が別にあることを知ったのは森を抜けた後のことだった。
森に入って五日目の夜、それは起こった。




