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これは優しいお話です  作者: aー
9歳 子どもの成長は早い
43/320

アレクセイ観察日記 sideイロアス

 わたし付きとして新たに配属された少年の事を、多くの人間が興味深く観察している。

 彼は己にとっての敵か否か。王宮は恐ろしいところだ。

 笑顔の下で皆が別の顔を持っている。

 彼は幼い時分よりかの有名な豪商で商いの勉強をしていたらしい。腹の探り合いはわたし以上にお手の物だった。

 幼いからといって舐めてかかったら最後、骨の髄までしゃぶりとられて裸一貫で放り出された人間がこれまで何人いたことか。

 そんな彼は最近、ため息が多い。

「どうしたの、アレクセイ」

「殿下、いくら王位継承権三位と言っても仕事をさぼってばかりおられると寝首をかかれますよ」

 私は四番目の王子だが、すぐ上の王子が継承権を放棄して研究職に走ったため現在は三位となっている。まあ、その上の兄たちは抜け目ないから、どう頑張っても私が王になることはないだろうが。

「ここは寝首をかかれるほど危険だったのか・・・いや、それはともかく。最近ずいぶんと疲れた顔をしているね。休みが欲しいなら申請しなさい」

「休みよりは爵位と金銭がほしいです」

 彼は現在王族近衛として一代限りの男爵位を賜っているのだけど、それでは足りないらしい。そもそも、彼はもともと貴族の出。わざわざ自ら爵位を取らなくても格好はつくのだ。それでも彼は爵位に拘る。

 まあ、騎士のほとんどは実家の爵位を継ぐ立場にないから、自力で爵位を手に入れることも珍しくはないのだけど・・・

「爵位が欲しいならどこかへ婿入りするしかないよ?」

「ちっ」

 なぜわたしに舌打ち・・・わたし、これでも王族なんだけど。

「まあいいです。で、私に元気がない理由ですが」

 これです、と見せられたのは一枚の姿絵だった。綺麗に折りたたまれて彼の胸ポケットに入っていたらしい。

綺麗な顔のお嬢さんだからまさかとは思うけど・・・

「ほお、ずいぶんと愛らしいお嬢さんだ。まさか君のフィアンセかい?」

「ええ、知らない間にベルノーラ商会で売り出されていました」

 買ったのか。

「不定期はやめてって言ってるのに!」

 は?

「発行頻度がわかれば発売日初日に買いに行くのに! 気づいた時にはもう売り出されているとか!」

「・・・きみ、もしかして集めているの?」

「あたりまえじゃないですか! 私の将来の妻の顔をどこの誰ともわからん奴が買うなんて許せません! 買い占めます! でも最近一人一枚までって決められちゃって、今回も一枚しか買えなかったんです!」

 本当に、将来の妻になる人なの? 君の思い込みじゃなくて?

「だからベルノーラ家へ文を出したんですけど、本人の許可がなかなか下りないから不定期刊行は仕方ないし、王都で変な男が買い占めているようだから一人一枚だけにしたんだって言われたらもうっ、心配じゃないですか! その変な男を捕まえて罰を与えないと不安で不安で!」

 それ、絶対君の事じゃん。

 わたしは賢明にも言わなかった。だって絶対寿命が縮むことになる。

 これが今じゃあ王都中にファンをつくる天才美少年騎士の実態だなんて誰が信じるだろう。

「でも一枚は手に入ったんじゃないか」

「何をおっしゃっているのです、よろしいですか。持ち歩き用、保存用、何かあったとき用、布教用。最低でも四枚は必要なんですよ!?」

 君こそいったい何を言っているんだ!?

「そ、そうか・・・それはまた・・・ああ、なんなら私の知り合いを紹介しようか、代わりに買ってきてもらうかい?」

 アレクセイはハッとした表情をしたかと思うと、すぐに眉根を寄せて考え込んだ。

「いや、でも・・・殿下に貸をつくるのは怖いし」

 わたしをなんだと思っているのだろう・・・

「わたしの従妹殿なら、ベルノーラ商会に入っても違和感はないだろうし、身分もしっかりしているよ?」

「じゃあお願いします! ぜひ、できればあと三枚ほど!」

 必至すぎる少年に若干腰が引けそうなんだが・・・

「いいよ。だからアレクセイ、わたしの仕事手伝ってね。今度の地方視察も同行してね」

「仕方がないのでお手伝いします!」

 いつにない爽やかな笑顔で言い切った少年の頭を本気で殴りたくなったのはわたしだけの秘密だ。



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