アレクが心配なんです
アレクがそろそろ十五になるぞとアーシェに教えてもらって、私は仕方なくペンを手に取った。
アレクへの返事は、実はしばらく書いていない。
彼が目指している大会については、前々から噂で聞いたことがあったの。
毎年何人もの若者が将来を断たれる、命がけの大会。たしかに勝てばいいのだろう。だけど、もともと彼は騎士を目指していたわけじゃない。
私の事を心配して強くなろうと焦っている気がしてならない。
急いては事を仕損じるというし、私はどうしても彼を応援できなかった。
でもこのまま行っても彼はきっと大会に出場してしまうのだろう。
なんとか無事に生き残ってほしい。
奥様に相談したら、それなら別の刺繍を送りましょうと言われた。
いや、あの、刺繍のお話では・・・ああでも、確かに誕生日プレゼントとして送ればいいのか。
そこで、どういうものが良いのか尋ねると、髪留めにも使えるよう黒いリボンに祈りの古代語を刺繍してはどうかと教えてもらった。
黒いリボンを髪留めにする騎士は意外と多く、魔物にも人にも負けない強さの象徴なんだそうだ。
よかった、これで難しい大輪の薔薇とか言われたら絶対間に合わないところだった。
古代語なら読める人は限られているし、でもアレクは教養として習っているから読めるんだって。
私はまだ全然読めないので、奥様に決めて頂き、それを何度もペンで書いて形を覚えていざ針をさした。
もともとそう多くないパターンだったので、私の様な不器用な人間でもなんなく完成できたのは全て奥様のおかげだ。
さて、プレゼントは決まった。
でも手紙にはなんて書こうかしら。
「・・・お嬢さん、素直に心配だって書けばいいじゃないですか」
最近よく喋るネッドが簡単に言ってくれる。
「そうできればいいけど、男の人ってこういうとき、応援されたくないの?」
「好きな女には応援されたいですね」
「ね、そうでしょ?」
ネッドが一瞬何か言いかけたけど、すぐに口を閉ざしてしまう。
「でも心配なの。だって危ないんでしょう?」
「しかしお嬢さん。はっきり言わせてもらうと、我々のしごきに耐えられたアレクセイがお飾りの大会ごときで怪我をするとは思えません。騎士団主催の武闘大会はあくまでも型の流れや作法に重きを置きます。我々が教え込んだ殺しの作法とは別物です」
「あなたたち、いったい何を教えていたの・・・・・」
なんて恐ろしい!
「まあだから、大丈夫ですよ」
「本当?」
「ええ。俺が保証します」
その言葉は自信にあふれていて、きっと本心なんだと思った。
ネッドはいつも私を守ってくれる人で、強いんだろうことはわかっていたし、彼の言うことなら何となく信じられた。
「わかったわ。手紙を書きます」
「ええ、そうしてください。きっと待ってますよ」
めずらしく、本当にめずらしくネッドが笑った。
きっと明日は雨ね。
でもそんなことよりも、早くお手紙を書かなきゃ!
私は久々に、アレクに向けて言葉をおこしたのだった。




