ギルマスと鷹便 sideアーシェ
アレクセイが屋敷を出て行っておよそ一年。たったの一年でめきめきと頭角を現しているらしいことは、王都から離れたこの街にも伝わってきている。
なんでも鬼気迫る勢いで先輩連中を蹴落としているらしい。
もともとあいつはリーナのために強くなりたいといって出て行ったのだ。頑張るのは当然だろう。
今年の星祭りはリーナが手作りのお菓子を見守り隊に差し入れてくれて、とても、本当に、心から楽しい一夜だった。まあお菓子は争奪戦になったんだけどな。
で、だ。
星祭りから数日。アレクセイから文が届いた。なんと高価な鷹便。飛脚なんて目じゃない莫大な金がかかる、鷹便。
あいつ王都に行ってから質素倹約して少しでもリーナに貢いでいたらしいが、まさかの鷹便をこの俺に。
戦々恐々としながら開いてみると、そこには日頃の感謝から現在の様子、そして今後の予定が事細かに書かれていた。ついでにリーナにプレゼントのお礼を伝えてほしいので同封する手紙を渡してもらいたいと。
いやお前、それが本命だろうが。
しかも今後の予定の中に、四か月後に開催される騎士団主催の闘技大会に出席するとあった。
好成績を残せればそれだけ出世が早まるものだ。だが、いかんせんあいつにはまだ早い気もする。
実戦形式で行われるそれは、模造品ではない本物の剣を使うことから毎年負傷者が出る。そこで負傷し将来を断たれる若い騎士も少なくはないのだ。
俺は悩んだ末ペンを手に取ってすぐに翌日の鷹便を依頼した。
その足でリーナのところへ向かう。
今日も今日とてうちで行儀見習いの最中だ。
「リーナ、ちょっといいか」
「お帰りなさいませ、旦那さま」
にこりと微笑んだリーナは最高に可愛い。でもどうせならパパと呼ばせたい。
リーナの将来のために俺は最近、コツコツ貯蓄を始めたのだ。いくらでも貢げるぞ!
「ただいま。実はアレクから鷹便が届いたんだ。俺の文と一緒に何か送るか?」
ひらりと手紙を見せると、リーナがまたふわりと微笑む。
毎日いい女に一歩ずつ近づいているリーナに、悪い虫がつかないようにしなければと心に誓う。
「ありがとうございます。今、読んでもいいですか?」
「もちろんだ。紙とペンを誰か持ってきてくれ」
音もなく護衛が持ってきた。うん、いい仕事しているな。
リーナはじっくり三回ほどその手紙を読んで、それからすっと俺に目を向けた。
「どうした、リーナ。なにか気になる点があるのか?」
「この・・・大会とは?」
そうか、そのことも書かれているのか。
「あー・・・まあなんだ。てっとり早く昇進できる機会ってとこだな」
かなり危険だけど。
「てっとりばやく」
「おう。騎士になるやつはだいたいそれに参加するんじゃないか?」
「それは、どれほど、危ないことですか?」
え。
「闘技、は、戦うこと。大会は、たくさんの人が参加するんですよね」
「お、おう」
「アレクの今の実力は、それにふさわしいものですか?」
ぎくり。
「いや・・・まあ、でもほら、あいつだってきっとかなり強くなってると思うし! 男の夢を応援するのはありじゃねえか!?」
「・・・・旦那さま」
「お、おう」
「わたし、今回はお手紙の返事をじっくり考えることといたします」
なんか怒ってる?
「おう、そうか・・・うん、それがいいな。うん」
女心は小さくても難しいものだ。
リーナはその日一日むすっとしていた。




