商会 sideアーシェ
ベルノーラ商会では昨年より女性が自由な髪型でいるべきだというお触れが発行され、瞬く間に全土へと広がった。
幼い少女が短剣で髪を切られた話、それにより責任を感じてメイドが髪を切ってしまった話と共に。
リーナの姿絵を全店に配布して、髪が短くても可愛いじゃんアピールを全力で推し進めた。
今ではベルノーラ商会で働く二割の女性が髪を思い切って切るなど大胆な行動に出ている。これには当初様々な批判や心無い嘲笑があったが、一度でもベルノーラ商会を訪れたことのある人間は決してそんなことをしなかった。
髪を切った女性たちの多くは、リーナよりもメイドに同情的だった。自分たちもついている、決して悲しみにくれてほしくないという思いから踏み切ったようだった。
もちろん家庭内では色々と衝突もあったようだが、それでもゲベートをはじめ、グランツ王国内ではじわじわと人気が広がり始めている。
それに合わせて女性向けの髪のケア商品も多数開発され、今では爆発的人気商品となっているが、それはまた別の話。
「アーシェおじさま!」
「ああリーナじゃないか。どうした、お腹が空いたのか? ようし、パパがおいしいものを食べさせてあげよう」
ギルドに突如響いた声に顔を向けると、普段は愛らしく微笑まれているリーナの顔が分かりやすく怒っていた。うん、そんな顔も可愛いな。
「どうしたじゃないよ、なんで私の顔がいろんなところに張り出されているの!?」
「リーナの可愛さを王国中に広めるために決まっているだろう? それにリーナが可愛いから最近ではこの街でも髪の短い女性も増えてきたじゃないか」
「そういう問題でもないよ!?」
「なに言ってんだ。流行らせればいいってリーナが言ったんじゃないか。だから君に宣伝塔になってもらったぞ」
なんだががっくりと肩を落としたがどうしたんだ?
「それにな、リーナ。君がワイズに伝えたペンの件だが、来月の中ごろには販売が開始されるそうだ。君に商才があったなんて嬉しい発見だな」
リーナが更に頭を抱えてしまったがいったいどうしたのだろうか?
「そこでだ、リーナ。君に一つ提案がある。君のせっかくの発明品がこのままベルノーラ商会だけで終わるのはもったいないだろう? そこで、商業ギルドに登録してみないか?」
「商業ギルド?」
「そうだ。ここが冒険者ギルドなら、商業ギルドも存在する。小遣い稼ぎになるかもしれんぞ」
「やる」
即答か・・・リーナは最近更に金に厳しくなったとラティーフが言っていたがこれほどとは・・・
「では明日、商業ギルドに連れて行ってやろう」
「本当? ありがとう、おじさま!」
その笑顔がなんと可愛らしいことか。
「いいかげんパパと呼んでもいいんだぞ!」
「それはイヤ」
笑顔で言ったら笑顔で返された。別に悲しくない。そんなツンなリーナも可愛いからな!
そして翌日、俺は休憩時間を多めにとってリーナを商業ギルドへ連れて行った。




