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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
315/320

王都に来てしまった

 泣く泣くラガーとお別れし、ついでにマリドともお別れした。

 ただし彼は数日中に一度王都に来る用事があるそうで、そこで正式に契約を交わすことになった。

 王都のベルノーラ商会が会場をセッティングしてくれるので、特に問題はなかった。

 泊る予定のホテルを教えるとあそこかと驚いていたので、知っている場所なのだろう。

 最後に木彫りのカップを一つくれた。

 一年に一度、丁寧に磨かないといけないらしい。

 彼がしてくれるとのこと。

 これで飲むラガーは優しい味わいなのだ。

 薄いガラスで飲んでいた前世、キンキンに冷やしたビール。


 懐かしい思い出に浸った直後、そうだ冷蔵庫作ろうってなった。


 何故かネッドが全力で引いている気がしたが、まあいい。

 このカップをくれたということは、彼は絶対にわたしのもとに来るのだ。

 そして美味しいラガーを作ってくれるのだろう。

 ふふふと笑っていると、ドン引きしたネッドが「そろそろ王都です」と言った。

 三年ぶりの王都。前回来た時にはひどい目に遭った。

 三年経ち、街は多少回復したようだ。

 だがどこかほの暗い瞳を持った人間も少なくなかった。


 前回とは違い、お祭り騒ぎの王都はどこもかしこも人であふれていた。

 最初にベルノーラ商会に出向き身支度をすると、ノアとともに王城へ向かう。

 ノアは辺境伯の名代として星祭りに参加するようだ。

 総一郎ともすでに面会を済ませており、意気投合したと言っていた。

 なんの話題で盛り上がったのかは聞かなかった。


 三年前とは違い、多くの貴族が戻ってきていた。

 うちのお得意さまも多いので、なるべく目立たないようにする。

 今日は仕事をする気分ではないのだ。どうせ星祭りの夜になると囲まれるだろうから、それまでは放っておいて欲しかった。


 数日して星祭りの初日、にやりと笑う懐かしい顔に白けた目を向けてしまった。

「ようやく来たか、家出娘」

「ごきげんよう、王太子殿下。妃殿下の鞭は未だ健在でしょうか」

「黙れ、思い出させるな」

 なかなかに不機嫌な御仁を適当にあしらい、夜を待つ。

 城の一角に用意された専用の部屋で更に着飾り、多くの貴族たちが待つ会場に足を踏み入れる。

 数年前の騒動に貢献した総一郎やチキン先輩も呼ばれていた。

 ほかにも元勇者たちもいる。

 シュオンがこちらを見て頷いたので軽く手をふる。

 もう一人、騎士姿の壮年の元勇者は驚いたように目を見開き、それから眩しそうに眼を細めた。

 小さく「無事であったか」と安心したような呟きが漏れた。

 離れた場所にいたのに、何故か届いた。


 王の言葉から始まり、王太子の言葉が続き、夜会はつつがなく進む。

 チキン先輩はやっぱりチキンで、何故か誰よりも緊張した顔を隠さない。

 いやあんた、いい加減慣れなよ。元勇者でしょ?


 会場での顔見世は終わったので早々に逃げる。こういうとき小さい体は便利だ。

 こそっと二階に上がり外に出て、月明かりの下いただくワインの美味しいこと。

 ふと下を見ると、離れた場所にチキン先輩が出てきた。まだこちらに気づいていない。

 せっかくの美しい夜だというのに、もう酔ったのだろうか。

 しばらく観察してみる。

 場所柄ネッドはいないが、わたしの近くには他の護衛がいるので大丈夫だろう。

 チキン先輩はきょろきょろと落ち着かない様子で周りをみては、誰もいない場所を探しているようだった。


「こっちにくればいいのに」


 ざあっと風がしたから吹き上げて、チキン先輩がわたしを見た。

 

何かに驚いたように目を見開き、それからしばらく固まってしまった。


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