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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
314/320

まさかの展開に声を失う sideネッド

 俺がいない間にお嬢さんが工場主の家に連れ込まれたと報告を受けたのは、しっかり調査した後だった。まだ少し判明していない点もあるが、お嬢さんの願いを叶えるために色々と調べてきた。

 そう、こんなにも一生懸命に頑張ったのはひとえにお嬢さんのためなのに。

 なんでそう簡単に男の家に行くかね!

 他の連中も危害を加えられそうにない場合は手を出さないから、ハッキリ言って役に立たない。こんな無能どもの何が護衛か!

 慌てて駆け付ければ、見知らぬ若い男の膝に頭を乗せて寝ているお嬢さん。

 近くのテーブルは大量の酒を飲んだことがうかがえる証拠品が残っていた。

「まだ午前中だぞ!」

 思わず頭を抱えてしまった。

 あれだけラガーを追い求めていたお嬢さんだ。きっとたらふく呑んだに違いない。

 その上、俺の知らない男の膝枕で寝るとは何事だ。

「・・・あんた誰だ」

「うちのお嬢さんから、とりあえず離れてくれ」

「悪いが無理だ。完全に寝ている」

 足がしびれたと淡々と言う男に嘘は見えない。

 とりあえずお嬢さんを抱きかかえると酒の匂いがした。

「まだ朝だっていうのになんてことを・・・お嬢さん、なに爆睡してるんですか、お嬢さん!?」

「そう揺らしてやるな。あと、ベッドルームはあっちだ。寝かせてやると良い。これだけ食って飲んだからな。しばらくは起きないだろう」

 お嬢さんより少し年上に見える男は、ゆったりとした動作で立ち上がり、それからふらりとテーブルに手をついた。本当に足がしびれていたらしい。

「うちのお嬢さんがご迷惑をおかけして」

「いや、いい。もとをたどれば、うちのものが傷つけたからな」

 この街では女は守るもの。

 貞淑な生き方が求められる。

 しかし貞淑な女なんて存在しない。

 そんなものは男が夢を見ているに過ぎない。

 かと言って、午前中から酔っぱらった様子を街の連中に見られるのは得策ではない。

 お嬢さんはベルノーラの看板を背負っているのだ。

「しばらく、ご厄介になります」

 不味い干し肉を食うような顔をしてしまったが、男は小さく頷くのみだった。

 陰に潜んでいた護衛に伝令を頼み、ベルノーラの馬車を用意させる。

 それまでは寝かせておこう。

「ベルノーラの人間だよな」

「ええ、そうですかが」

「もう帰るのか?」

「店に? ・・・いえ、街にはまだ帰れません。星祭りに合わせて王都に行くので」

「そうか」

 男は何かを考えるそぶりをして、それからうんと頷いた。

「先ほど、その娘から誘致の誘いを受けた。うちとしては他の街で作って、同じように作れる保証はないのだが、いろいろと用意すると言われた」

 ああ、お嬢さん本気だったんだ。

 確かに、この男が来てくれたらうまくいくこともあるだろう。

 しかし旦那様の許可もとらず。

 いや、旦那様も面白がって許可しそうだ。

 なんならお嬢さんの財産だけで工場の一つや二つ作れる。

「お嬢さんはずいぶんとこちらの酒を気に入ったようです。お嬢さんがそう言うなら本気でしょう」

 誰がなんと言おうと、本気になったこの女を止められるのは片手で数える程度の人間しかいない。でないと全力で逃げられるからだ。

「屋敷も、工場も、手配はお任せください」

「そうか。といっても、すぐにどうこうというのは無理だ。ここを軌道に乗せたい。弟子たちを急かそう」

「そうですね」

「ところで」

「なんですか?」

 他の男のベッドで寝かせるのは癪なので、とりあえず広めのソファを借りた。俺のジャケットを腹の上にかけてやる。

「この娘、名前はなんて言うんだ?」

「知らずに話していたんですか!?」

 大丈夫か、こいつ。

 警戒心なさすぎじゃないか?

 いや、お嬢さんの愛らしさに騙されたのだろう。

 仕方がない。

 俺のお嬢さんだからな。

 魔性だ。

 淡々とした表情の男が、お嬢さんをどんな想いで見ていたのかなんて、この時の俺は気づかなかった。

「この人は・・・」

 数日後、心から名前を教えなければ良かったと思ったのは、仕方のないことだった。


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