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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
302/320

ノア君が逃走しました

 道中の買い食いを楽しみながら旅路を進んだわたしたちは、予定通り家族のもとに帰った。

 思ったよりも長い時間がかかってしまったが、帰ったとたん妹が泣きながらわたしにひっついてきて、なんて可愛い生き物だろうと感動した。

 その翌日、商会から連絡が届いた。

 いわく、優秀な人材がダルヤに帰ってしまったので連れ戻してほしい。ついでに辺境伯家へリボンを巻いて献上してほしいとのこと。

 ・・・いや、献上したらダメでしょうよ。

「本人はなんて言ってるの?」

「自分はまだまだ修行の身ゆえ、辺境伯家に嫁ぐことはできないとのことです」

 商会から書状を持ってきた係の人に聞けば、どこかそわそわと落ち着きのない様子でわたしを見た。

 大方わたしがノアとも、そして元凶であるハイディとも知り合いなのを考慮しているのだろうが、そもそもハイディがうっかり王都へ行っちゃうからその隙に逃げられたのだろう。

「ノアを伯爵家へ渡して良いのですか?」

「・・・伯爵家とのつながりを、より強固にできるかと」

「むしろノアに全力で恨まれそうです。とはいえ、双方の話を聞きましょうか」

 係の人はホッとしたように安堵して帰っていった。

 やっと街に帰ってきたと思ったらこれだ。




 数日後わたしたちから少し遅れて戻った彼女のもとを訪ねた。

ハイディは日課のジョギングを終えたまま、無造作にタオルで汗をぬぐっている。

どこからどう見ても伯爵令嬢とは思えない。

 その上腕二頭筋、ちょっと育てすぎじゃないですか。

 実は最初、薬を盛ったと聞いたとき、本当は腕力で物理的に落としたの間違いだろうと本気で思ったくらいだ。

「さすが、我が夫は殊勝な心掛けだ」

「まだ婚姻前です。実家に帰るほどのことがあったんですね。無理やり襲うのは良くないですよ」

「む。しかし見てみろ。この私の姿を! こんな女が正攻法でいけると思うか?」

 確かに全身びっちりタトゥーがあれば、正直見た目が怖い。

 しかしハイディには可愛いところもあるのだ。

「ハイディさま。ノアを逃せば、あなたはきっと、今度はまた赤毛の男に狙われますよ。良いのですか? その場合国外に嫁ぐことになりますが」

「あれだけは嫌だ。あれはしつこい」

 激しく同意する。そのあたりちょっとネッドに似てるんだよねと思わないでもない。

「ではどうしたいのですか」

「・・・私を嫌いになったのだろうか」

 むしろ好かれていると思っていたのか?

「お前には偉そうなことばかり言ってきたが、人と向き合うのは怖いことだな」

 自覚なさってくださって感謝ですよ。

「リーナ。それでも私一人ではどうにもできん。協力してくれないか」

 真剣な瞳を見ていたら、うっかり頷いてしまった。

「お二人が話せる機会を用意しましょう。わたしが先にノアの実家・・・じゃなかった。彼がいるはずのダルヤに行きます。取り戻したいのなら、ハイディさまも努力しないとだめですよ」

「わかった」

 真剣な顔で頷く彼女は、まるでこれから戦場にでも行くような表情を浮かべていた。

 いや怖いよ。

 それから作戦会議とも言えない時間を過ごし、十日後に出立することが決まった。

 ハイディはすぐにでも行ってほしそうだったけど、最近までそばにいなかったせいか、妹がわたしの傍から離れようとしなかったのだ。

 ハイディよりも妹を取るのは当然だ。

 それになにより、妹信奉者の某黒服からは射殺さんばかりの視線が痛いので、しばらく大人しくせざるを得ないのだ。

 ごめんねハイディ・・・


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