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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
301/320

とりあえずお別れを言いましょう

「やっと帰ってくれてうれしいよ」

 珍しく爽やかな顔で毒を吐く総一郎。こちらも負けじと笑顔を向ける。

「また会いに来てあげるわ」

「来るな。お前が来ると忙しくなる。まったく、チキン先輩となに全力で遊んでるんだよ。あそこまでしろって言ってないだろ。あれから連日残業の日々だったんだぞ」

「わたしのせいではないわ。アレクに言ってちょうだい。でもあの二人、なんだかんだと仲がいいと思うのよ」

「ふざけてんのか、チキン先輩はあの後薄毛に悩みだしたぞ。ぜったいストレスだ」

 これは商機!

「任せて、男性育毛剤を開発してみせるわ!」

 なぜか頭を叩かれた。

地味に痛い。

「まあ、なんだ。気を付けて帰れよ」

「ええ、ありがとう。じゃあまた」

 総一郎との別れはいつも無駄がない。

 もしかしてこれが最後になるとわかっていても、わたしたちはお互い振り向いたりしないのだ。

 王都を出る日の朝、商会のスタッフはさみしい気持ちを全力で見せつけてくれた。

ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、また絶対に来てくださいねと涙を流して見送ってくれた。

 その後総一郎と軽く挨拶をして、それから王都を出ようと門へ行けば、アレクと神官姿のシュオンが待っていた。

「結局、今日まで会えなかったな」

「そちらも大変だったでしょう? 大活躍だったって聞きました。お疲れ様です。シュオン」

「ああ、そなたも、よく頑張った。あの元王太子のことだが、聞いたか?」

「いつか教えてください。今のわたしには必要ない情報だから」

「そうか。わかった・・・気を付けて帰りなさい」

 そっと、いたわるように抱きしめてくれたシュオンは、名残惜しい様子を隠すことなく、またそっと離れていった。

「アレクはどうするの?」

「私のこころは一つだよ。いつでも君を想っている。・・・もうしばらくは冒険者ギルドに世話になろうと思うんだ。もっと強くなりたいからね」

「十分強いでしょう?」

「騎士は対人戦、冒険者は魔物に対しての力の使い方が上手なんだ。私はどちらも学びたいと思っている」

 根がまじめだものね。

 感心していると、とても綺麗な笑みが返ってきた。

 たくさんの人が行きかう門のそば。多くの人が彼の笑顔に足を止めた。

「いつか君をネッドさんから奪ってみせるから、待っていて」

「・・・元気でね、アレク」

「リーナも、元気で」

 彼はわたしの左手をそっと持ち上げて、そのまま口づけをした。

 まるで世界でわたししか見えないと言う風に優しく目を細める。どこかで誰かが悲鳴を上げたが、わたしたちは無視した。

 するりと手を離した彼は、今度は気配を殺していたネッドに目を向ける。

「奪いに行きますから」

「死ぬ覚悟でくればいい」

 脅しじゃないんだろう。二人の男はうっすらと笑みを浮かべているが、どこか寒気がした。

「純粋な疑問なんだけど、そもそもわたしがネッドを選ばない可能性の方が高いのに、アレクはネッドだけが気になるんだね?」

「え!?」

 男たちがそろって声を上げたので、じゃあねと笑って歩き出した。

「ちょ、お嬢さん? え、ま・・・え」

 珍しくネッドが慌てているのが面白かった。


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