怒られました
祝300話!
「いまだかつて、これほどにばかばかしい星祭りの珍事ははじめてだ」
「はあ」
「わかるかね。君を理由に男たちが徒党を組むことになったんだよ」
「へえ」
「そのうえ、元騎士が起こした傷害罪が十四件、食事処の破損に対する請求まで城に届いた!」
「ほお」
やる気のないわたしの返事を、さして気にしない国王の情けない顔。
今夜は城で舞踏会が行われるはずなのに、狭い応接室で何をしているんだろう、この人。
原因がアレクもとい、わたしだから仕方ないのか?
「大変ですね」
「誰のせいだ!」
「えー・・・」
そんなこと言われても。
「現役の憲兵が捕まるとか、元騎士が連続的に事件を起こすとか! この忙しい星祭りに!」
いやそれ本人に言えよ。
「とにかく、そなたがかかわるとロクなことにならんのだ! 今宵は城にとどまり、祭りが終わるまで問題を起こすな!」
はいはい。わかりましたよー。
心の中で適当に返事をして、ぷりぷりしている陛下にカーテシーを返した。
「お前たちが問題ばかり起こすせいで、后とイチャイチャできんのだぞ!」
「王子様、またつくればいいじゃないですか」
年齢的にはワンチャンいけるのでは?
「その時間を奪っているのはそなたたちだ! ああもうっ。昨日こそ踏んでもらえると楽しみにしていたのに! 星祭りが終わっても忙しいのに!」
今のは聞かなかったことにしてあげよう。
怒りながら応接室を出ていく王を見送ると、部屋の前に立っていた騎士が微妙な顔をしていた。
ネッドは静かに肩を震わせて笑っているので、こちらも見なかったことにした。
星祭りは、開催側はとにかく忙しいらしい。
アレクやチキン先輩が必要以上に怒られないことを、星に願っておこう。
翌朝、全てが終わった爽やかな朝。
応接室に強制的に寝泊まりしたわたしの前に、濃いクマを作った陛下が現れた。
この人には今度、男性向けの化粧品を送るように手配しておこう。
「おはようございます。ごきげんよう。爽やかな朝ですね」
「おはよう、そなたには爽やかにみえるのであれば、良い日だな」
見た目が一気に五歳は老けた様子の陛下にドン引きしていると、一枚の紙を手渡された。
「そなた。ベルノーラはやはり爵位を求めぬと思うか」
「いらないでしょう。なくても困りませんから。面倒ごとは辺境伯にまかせてしまえばいいのですし」
一応、問題を起こした元王太子からされたことに対する謝礼の一覧が載っていた。
ふむふむ。ドレスに使えるような上等な絹に、外国の書物、宝石などか。
「そなたはいらぬのか」
「爵位なんてあったら家出するとき面倒じゃないですか」
「・・・私も人の親ゆえ思うのだが、かわいい娘が何日も帰ってこぬのは辛いぞ」
「じゃあ今後、家出は一年に一度までにしてあげます」
「・・・まあ、そうしなさい」
よし言質とった!
「しかし、そもそも今年は家族で星祭りを迎えるはずだったのに、元王太子の行いで王都へ来ることになったのです」
わたしのせいじゃないよ。と無言の抗議をしてみる。
「ふむ・・・では、特別に帰りは王族専用の馬車に乗ると良い。乗り心地は保証しよう」
「お断りいたします。馬車では買い食いしにくいではありませんか」
「・・・そういうものか。では、何が欲しい?」
モノでつるの、なんとかしなよ。
そんなんじゃいつか人が離れていくよ。
「では・・そうですね、他国より来ているプリーティアさまと、今後継続的に連絡を取りたいのです」
「あの逃亡聖女か? 無理だろう。公式では死んだことになっている女だぞ」
ちっ、使えないわね。
「そなた、私をそんなふうに睨みつける女は妻だけで十分なのだが」
なぜ喜ぶ。気持ち悪い人だな。
「じゃあ、王都を早く再建してください。うちがもっと稼ぐために」
「私情にあふれているが、あいわかった。約束しよう」
「あとわたしの無事も約束してください。これ以上、夜中に呼び出されるとか迷惑です」
「・・・うむ、わかった」
ジト目で見られても怖くないわ。
「して、これからどうする?」
「あと数日で王都を出て家族のもとへ帰ります」
「そうか、では会うのはこれが最後だな。息災で」
「ありがとう存じます。陛下もどうぞ、ご息災でありますよう」
深々と頭を下げると、一度だけ大きな掌が頭にのった。
顔を上げたときには、王はすでに部屋から出ていくところだった。
後日、男性用化粧品一式と、ご夫婦の夜のために香りのよい香油をプレゼントしたところ、王妃から、子どもが変なものを送ってくるものではないとお叱りの書状が届いた。
香りが気に入らなかったのかと思っていたら、王から別便で、香油と化粧品の定期購入の連絡が入ったので、大人の事情とは面倒なものだなと冷めた目で書状を見つめた。
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