護衛の心情 sideネッド
俺の名前はネッド・ニール。現在ベルノーラ家の要人警護を生業にしている。
もともと孤児院育ちだった俺は、十の時にベルノーラ家へ引き取られ、教育から礼儀作法まで叩き込まれたが、剣術が特に得意だったため警備班へ配属された。
俺たち警備班は無駄口を叩くことはないが、今の護衛対象が子どものため時より会話を交わすことも増えた。
「ネッド、きょうも、ありがとうございました」
俺の前で小さな頭を下げるのは、最近ベルノーラ家の秘蔵っ子とも呼ばれるようになってきたリーナという少女。危険な森で拾われ、その容姿から嫌煙されがちだが、素直で優しいとても良い子だ。
「いえ、では」
行儀見習いが終わり自宅まで送り届けると、必ず感謝の気持ちを表してくれた。
彼女はわりと最初から特別扱いされていた。
本来ならば本家の人間以外持つこともできない純銀製の笛を持たされ、危険に陥った場合は俺たちが助けるよう厳命されていた。
しかしそんな状況に陥ったのはただ一回のみ。それも、他のメイドを助けるために呼ばれた。
あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。
普段は何を考えているのかわからない黒い瞳が、あの瞬間、ただ一人に対してのみ敵意をもって向けられていた。
「もう、けっこうです」
静かだが譲らない声には確かに怒りがこもっていた。
「ありがとうございます。お客さまがお帰りですので、出口までご案内してさしあげてください」
普段つたない口調なのに、その時ばかりはすらすらと喋っていた。
俺や他の護衛が連中の首根っこ引きずって歩き出すと、教会の出入り口まで引きずっていき、相手の護衛にとりあえず一発ずつ拳をぶち込む。
蹲り声も出せない男たちを放置していたら一人の女が必至の形相で走ってきた。
彼女は一度リーナを傷付けたが本意ではなかったことを報告に受けていた。こういう場合女性の方が親身に看病できると判断して侵入を許した。
あの後我が儘坊ちゃんを思い切り殴った彼女には正直良くやったと思ったがもちろん口には出さない。
その後、責任を感じてかアレクセイが俺たちに個人指導の強化を願ったので、思い切りかわいがってやった。
努力する奴は嫌いじゃないからな。
アレクセイはしばらくすると、もっと強くなりたいといって街を出て行った。
でもアレクセイよ、お前、いくらなんでも七歳の少女に求婚ってどうなの。
この話題は幾度となく俺たち警備班の中では持ち上がり、大人になったリーナがその求婚を受けるかどうかの賭けに発展した。気の長い賭けだ。
ちなみに旦那様は受ける、坊ちゃまは受けない、奥様は受ける、ワイズ様は受けないという具合だ。
ワイズ様、何気に酷いな。
俺は、受けないにいれた。
だってまだ七歳の女の子だぜ、たぶんあれの意味すら気づいていない。
だがアレクセイはわりとくどい性格だった。
その後定期的に情熱的な手紙と求婚を繰り返した。
さすがにその頃には俺も諦めて、受ける、に鞍替えしたのは言うまでもない。




