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これは優しいお話です  作者: aー
7歳 家族になりましょう
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化け物と呼ばれた日

 冒険者の朝は早い。

 日が昇る前には家を出てギルドに行き、そして夕方前には帰ってくる。

 ラティーフには昔奥さんと子どもがいたんだけど、魔物に殺されて今は一人で暮らしているんだって。

 前はアパートの大家さんが朝ごはんを作ってくれていたらしいけど、もう老婆で足腰も弱っているそうなので私が今は作ってる。

「おばあちゃん、朝ごはんができました」

 私が作る簡単な料理を嬉しそうに食べてくれる大家さんは、本当の孫のようにいつも可愛がってくれる。

 ここでの生活はもう二カ月近くになるけど、私の世界は狭いままだ。

 私の容姿はこの街ではかなり目立つらしく、大通りを歩けば警戒されてしまうため、あまり外に出られないのだ。

 買い物はラティーフが帰ってきてから二人で行く。夕方の市場はモノがほとんどなくてクズ野菜ばかりだけど、ラティーフはいつものことだと気にしないでくれた。

 私が目立たないように子供用のローブを用意してくれて、フードをかぶったまま買い物をしている。

「今日もおいしいよ、リーナちゃん。そうだ、今日はおばあちゃんと一緒に縫物をしようかね」

「うん!」

 大家さんはにこにこと人の良い笑顔を浮かべ、必要以上に私を詮索しないのが楽でいい。

「来月には星祭があるからね、リーナちゃんのために可愛いドレスを作ろうね」

「おばあちゃん、ホシマツリってなあに?」

「星祭はね、神様が一年に一度みんなの願いをかなえるためにたくさんの星を降らせてくれるんだよ」

 いや、意味がわからん。

「お願いが、かなうの?」

「ああそうだよ。リーナちゃんは何をお願いする?」

「そうだなぁ・・・・あ、ラティーフさんが無事に毎日帰ってくるようにお願いする! あのね、この前もね、ちょっとケガをしていたの!」

「ほほ、リーナちゃんは優しいねえ」

 いやいや、服をつくろうのは私だからね。下手に汚さないでほしいの。怪我をしてほしくないのも本当だけど、擦り傷っていいながら服を滅茶苦茶にされた日はどうしようかと途方にくれたもんよ。

 なにせこの街では服屋なんてものはほぼなく、基本的に売られているのは誰かのお下がり。それだって結構な値段なのだ。

 ラティーフの稼ぎは少なくないけど多くもない。今は私を養っているせいで余計にお金がかかっているはずだし、無駄遣いはさせられない。

「おばあちゃんは、何を願うの?」

「そうさねえ・・・ああ、毎日リーナちゃんの美味しいご飯が食べたいねえ」

「作る! もっとうまくなるから、待っていてね!」

 ありがとう、と微笑む姿は慈愛に満ちていて、心が暖かくなった。


 夕方、私は買い出しを兼ねるためにもラティーフをギルドまで迎えに行く。

「おいラティーフ、最近付き合いが悪いじゃねえか。今夜ぐらい一杯いけるだろう?」

「リーナがいるからな。俺は帰る」

「なんでだよ? あんな化けもんみたいなガキのどこが可愛いってんだ? 気色の悪い黒髪に黒い目だぜ。魔物のようじゃねえか!」

 どうやらラティーフはもうお仕事が終わったみたい。ラティーフが他の冒険者に肩を抱かれて出てきた。ちょっと迷惑そうな顔をしている。声が聞こえて足を止めた私は、会話を聞いて溜息をつく。

 そうなのだ。みんな、私が可愛いから警戒していたわけではないのだ。この世界で黒髪と黒い瞳は悪の象徴らしく、市場でも一人で買い物できない理由はここにある。

 正直、ラティーフと友二名の他には、大家であるおばあちゃんとしか会話しない毎日。だって目が合うだけで怯えたり逃げたりする人がほとんどなんだもの。

 下手にギルドに入ろうものなら、魔物に襲撃を受けたと勘違いされて殺されてもおかしくないのだ。

「あ?」

 その時、ラティーフのとても冷たい声が聞こえた。たった一言。なのに、場が凍るほどの怒りを感じた。

「俺の娘が化け物だってのか? あ? もう一度言ってみろ」

「い、いや、だって・・・それに、お前のガキはもう死んでるだろう。いくら丁度いいのが近くにいるからって、身代わりみたいにそばに置くのはどうなんだよ!」

 少し離れた場所で、ラティーフが手を振り上げるのが見えた。

「ラティーフさん! やめて!」

 思わず彼にしがみつく。自己最高記録更新なみに走ったことは後から気付いた。

「いいの、だいじょうぶ。わたしは、へいきだから!」

 ぜえ、はあ、と全身で呼吸する私に驚いたように目を見開くラティーフと男。

「あのね、この髪も、この目も、気持ち悪いならちゃんと隠すよ。でもね、ラティーフさんを傷付けるのはやめて。このひとは、わたしを森で拾ってくれただけなの。なにも悪くないの!」

 私が抱きついてようやく落ち着いたのか、いつの間にかラティーフは振り上げた手を下していて、私の頭を不器用に撫でていた。



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