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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
298/320

説教が通じない sideパルキ

「お前はちったあ大人しくできないのか!」

 俺は今怒っていた。

 事の始まりは少し前。

 リーナと名乗る女にからむ酔っ払いを殴り倒した優男に、やりすぎるなよと注意した直後だった。

 別の男が急に近づいてきて財布をリーナから摺ったのだ。よくあるスリに、面倒だと思って追いかけようとした瞬間、何故か鞭が飛んできた。

「本当は足を切り落としたかったのですが、あなたが邪魔だったのでこちらにしました」

 笑顔で言うことじゃねえ。あと俺を邪魔とかいうな。

 そのあとも、別の酔っぱらいに絡まれるたび、相手の顔面に足をめり込ませたり、剣の柄で男の一物をつぶしたり、首を鞭で締め上げたりと物騒この上ないアレクセイに疲れた。

 とうとう、休憩がてら入った店で、酔っ払い三人に囲まれたリーナを救出すために、近くの椅子で男たちを殴り倒したアレクセイに怒鳴ってしまった。

「下種に言葉は不要です。まず再起不能にしなければ時間がもったいないです。そもそも私のリーナに汚い手で触ろうとした相手ですよ、のして何が悪いのですか」

「方法が悪いんだよ、誰がこの始末つけると思ってんだ! もっと平和的に助けて見せろよ、お前、顔だけは王子様風なんだろうが!」

 なぜか俺がこいつに睨まれたが、こいつはそれ以上は何も言わず、今度はじっとリーナを見つめた。しばらくして、

「私、王子様風な顔?」

 なんて斜め上な質問をしていやがる。

 俺は壊れた木製の椅子やテーブルを店員と片付けながら、その様子を見ていた。

「アレクは立派な騎士さまよ」

 よくわかった、こいつを助長させてんのはリーナだな。

「だから、きっと次はスマートに助けてくれるって信じているわ」

 お、いいこと言うじゃねえか。

「・・・わかりました。次は直接命を刈り取って、スマートに助けますね」

「全然わかってねえええええええぇ!」

 


 店で腹いっぱい飯を食わせて、とりあえず時間をつぶした俺たちは、やっぱりまだまだ屋台も見たいというリーナの願いを聞くために外に出た。

 夕方よりもさらに人が増えた街は、先ほどよりも前に進みにくい。

 スリに狙われないように、財布は下着の中に隠させ、俺やアレクは見える形で武器を手に持つ。空いた手でリーナの手をつかみ、両側から守る形にした。

 これなら何があってもアレクセイが誰かを殺せないだろう。

 そう思っていたのに。

「ぐぼっ」

 なんで俺らが両方から守ってんのにスリに狙われるかね。しかも、よりにもよってアレクセイの方へ逃げるなんて阿呆か、こいつ。

 俺より少し年下くらいそうに見える男が、アレクセイの足に転ばされ、剣の鞘で思い切り殴られた。

 こいつ、どこが騎士だって?

 めちゃくちゃ性格悪いだろう。

「どうかしたの?」

「なんでもないよ、酔っ払いが倒れちゃったみたい」

「そっかー。みんな平和を取り戻して、きっと酔いたい気分なのね」

 お前の頭の中だけ平和なのはわかったから黙れ、小娘。

「おい、こいつが何してるか本当はわかってんだろうが、現実を見ろ」

「いやあね。アレクはわたしのためを思ってやっているのよ。別に悪い人がバツを受けただけじゃない。過激なことを言っても、結局アレクは人を殺したりしないわ、優しい人だもの」

 優しい人は最後に股間に一撃くらわせたりしねえよ。

「私はリーナが怖がるようなことはしないよ。君の騎士だからね」

 さっき、スリの財布を抜き出して、しれっと屋台の肉買ったの、見てたからな。

 お前のどこが騎士なんだよ、むしろ追い剝ぎじゃねえか。

「アレク、あのお菓子気になるわ」

「買ってくるよ、待っていて」

 こいつ絶対スリの財布から出すつもりだな。いや、俺は何も見てない。

「お前、あんな男が良いのか」

 二人きりになったことに、何故か安心してしまった。

 あの男は心臓に悪すぎる。

「昔はもっと素直で可愛かったのよ。人って変わるのね」

「いやお前、わかっててついていくなよ」

「でもアレクは、わたしを傷つけることだけはしないわ。それは絶対よ」

 そういう問題かよ。

「わたしね、昔化け物って言われて石を投げられることも珍しくなかったの。でも彼はわたしのために怒ってくれた。優しい人よ」

「・・・お前があのいかれた兄ちゃんになついてんのは、それが理由かよ」

「でもどうしましょう」

 あ?

 いや待て、なんか一瞬黒い服の男が出てこなかったか、なんだその紙切れは。

 そして男はどこに消えたんだ?

「これ、あとはサインするだけって言われたんだけど。どうしたらいいかしら?」

 アレクセイの名前が書かれた婚姻届。

「あんないかれた男はやめなさい! もっと自分を大事にせんか!」

 思わず怒鳴ってしまった。

「いかれてないです。ネッドさんよりはマシだし」

 不満げな男が戻ってきたので、紙を取り上げて男の眼前にさらす。

「きちんとご両親に許可は取ったのか!」

「これから取ります。とりあえず既成事実があればなんとかなります!」

 ぶちりと脳内で何かがちぎれる音がした。


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