星祭りって一日で終わらないらしいですよ
王都の星祭りは特別だ。三日間開催される。
一日目が終わったばかりの翌朝。なぜか頭を抱える男を見やりため息が出た。
「なにしてんの」
「ここの酒やべぇぞ。めっちゃ飲みやすくて、吞みすぎた」
総一郎が完璧な二日酔いでベッドの住人と化している。ちなみに一時間前まではトイレの住人だった。
「白湯を持ってきてもらったから、飲んで落ち着きなさいよ」
「おう」
「一人で飲んでたの?」
「うんにゃ、勇者さんな先輩と呑んだ。俺より多分あっちのほうが酷い」
オジサンを酔わせて何してるんだ、この男は。
「とりあえず適当な女官に渡しといた」
「肉食獣に渡すなんて、酷い後輩ね」
「ショック療法だよ。一応美人を選んだぜ。俺の好みじゃねえけど」
偉そうなことを言っているが、絶賛グロッキーな彼はだいぶダサイ。
「辺境伯家からお姫サマが来たんだろ? 相手しなくて良かったのか?」
「昨日の夜、女子会をやったわ。狙った男が手に入って有頂天になってるみたい。とりあえず代理ってことだけど、なぜか彼女が辺境伯って呼ばれてるのよね」
不思議ねと首をかしげると、総一郎が胡乱気な顔を向けてきた。
「女子会・・・狙ってた男をどうやって手に入れたのか聞きたいような、聞きたくないよな」
紅茶に媚薬を大量に入れて無理やり飲ませて既成事実を作っただけよ。
その後数日口をきいてもらえなかったらしいけど、もう一回同じことをして心を折ったと。最近ではあきらめの境地で彼女の話を聞いているけれど、ベルノーラ商会としては優秀なスタッフに辞められそうで困っている。
「たいした話じゃないわ。この国じゃあ別に・・・そんなに、違法じゃないし。多分」
ちなみに彼はその後、自腹で毒見役を雇っている。
「違法ってなんだよ。可愛くない話か? 俺聞いて大丈夫なやつ?」
「可愛い・・・かな? 恋は盲目ってこのことよね」
違う国の冒険者な誰かさんが知ったら大変そうだけど、その辺は二人にお任せしよう。馬に蹴られるわけにはいかない。
「・・・お前、幼馴染のあのヤバいのには会ったのか? 王都に来てんだろ?」
「今夜ここに来るそうよ。王太子の番狂わせがあったせいで、ちょっと大変そうなのよね。自主退職した彼をもう一度手元に置きたいみたい」
まさかあの我儘王子がねえと思いながら、次の王は単純な頭だから御しやすいなとも思う。権力を持っていい方向に向かってくれるといいけれど。
「お前は休めたのか」
「ええ、しっかり休んだわ。牢屋の中で実験もできたから、今はレポートをまとめている間の休憩時間なの」
薬品研究は時間がかかるのだ。仕方ないと一人納得していたら、総一郎に変な目で見られた。
「で? 俺らの勇者先輩はどうだったよ」
「普通にいい人だったよ。わたしを守ろうとしてくれた。まさかこっちの護衛だとは思ってなかったみたいだけど」
物陰に隠れて威圧感出していれば誰だって警戒するだろうけれど。
わたしのことが怖かったくせに、いざとなったら守ってくれる、普通にイイ人だ。そのせいで余計に何年も苦しんだのだろう。
「今夜のお祭りは、昨日よりも出店がいっぱい出るんですって。最終日はもっとすごいらしいわ! ねえ、明日は一緒に行きましょうよ」
「いやだね。こっちの星祭り最終日ってのは、元の世界のクリスマスみたいな存在なんだよ。つまり、恋人たちの聖夜ってこと。お前と歩くなんてまっぴらごめんだ。俺は美女と歩きたい」
そんなローカルルールがあったなんて!
「えー。知らなかった。一人で行こうかな。でも夜は危ないから一人で出歩くなって言われてるし」
「お前のストーカーと行けよ」
「ネッドは事務処理が残ってるの。こっちの支店がなんども襲われたせいでやることが満載なのよ。あと王太子たちに売りつけた品物の回収とかもあるし」
再利用できるものはデザインを変えて新たな王太子妃に納品することが決まった。ほかにもドレスの裾を直したりと、いろいろ職人たちは忙しい。それに加えてネッドは大旦那さまの護衛も言い渡されていて忙しいのだ。
「あー・・・・じゃあちょっと頼みがあるんだが」
誰と行こうかな、なんて考えていたら、意外な提案をされてしまった。




