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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
293/320

悪夢から覚めて sideパルキ

 いつの間にか星が輝く時間帯だった。

 いつからこうしていたのかもわからないくらい、俺は庭園の端のガゼボでぼうっと座っていた。もちろんあの二人とは別のガゼボだ。

 何人もの身ぎれいな連中が離れた回廊をわたっていくのが見えた。おそらく相手からも俺が見えただろうが、全員見ないふりをしてくれた。

 俺が森に捨てた少女はベルノーラ商会で働いていると言った。家族もいると。

 そうか、生きていたのか。

 きっと数年前なら見た瞬間発狂しておかしくなっていただろう。

 でも気付くと俺は彼女を背にかばい、見えない敵を探した。

 この小さな命を今度こそ守らなければと、夢中だった。

「おせぇぞ、ソウ」

「いや俺、ずっと仕事してたから」

 あの少女と同じ色を持つ男が俺の前に立った。一本のワインを俺に手渡してくる。これ高いやつじゃねえか。

「いいのか」

 こんな高級な赤。俺らの給料の何か月分だよ。

「いいんじゃないか? グラスはねえから、交代で呑もうぜ」

 そう言われて一口飲む。胃にしみる。旨いが、ちとキツイ。

「お前は、顔に似合わない雑なところがなおりゃあ、女にもてるだろうにな」

「うるせえぞ、オッサン。俺は別に誰でもいいわけじゃないんだよ」

 こいつの女の趣味は特殊だと誰かが言っていたが、まさか少女が好きとか言わないだろうな?

「会えたか?」

「あ?」

「リーナだよ、ここにいただろ。あんたがずっと忘れられなかったやつ」

 ぶほっ二口目のワインを吹き出すと、ソウが思い切り顔をしかめた。

「汚ねえ!」

「おまっ・・・あの娘と知り合いか!? やはり身内なのか!?」

「あれと!? 勘弁して!?」

 え、じゃあどういう・・やはりよく見れば似ているしとジロジロ見ると、ソウは遠慮なく俺の頭を一度叩いた。

「いいか、俺はあんなのより全然マシだし、まともな人間だ。あんな放浪癖あって、公認ストーカー許してる馬鹿と一緒にすんな。俺は、まともで真面目な人間なんだよ」

 公認ストーカーってなんだ。よくわからんが、最近の若者言葉だろうか・・・?

「ずっと、知ってたのか」

「あんたのこと? みんな知ってたよ。でもあんただって何も聞かなかったじゃねえか」

 お互いさまだと笑うと、豪快にワインを開けていく。まて、俺はまだ一口しか吞んでないぞ。

「リーナっていうのか」

「あんたら、あいつの名前うまく呼べないだろ。だからリーナでいいんだよ。あいつの放浪癖すごいんだぜ。俺でも引いたわ。しかも超金持ち。すっげえ稼いでるからな。下手な貴族より資産あるぞ」

 マジか。

「最近じゃあ妹関連の商品爆売れしてるらしくてな。ベルノーラ商会はあいつがいりゃあいくらでも稼げるだろうよ。そいやあ聞いたか? 王太子の借金、あいつが原因」

「は?」

「あいつ、王都再建のためと、ベルノーラ商会の連中養うために、王太子や妃に高価なモン売りまくったの。いつ暗殺されるか冷や冷やしたけど、結局牢屋に入れられるだけで済んでよかったよな」

 良くないぞ? こいつ、絶対おかしいぞ?

「あんな小さい娘が、牢屋に入れられて平気なわけあるか」

「いや、むしろ籠城してたあいつを出す方が大変だったらしいぞ」

 牢屋に籠城、こいつも昔したな!?

「お前、やっぱりあの娘の身内だろう!?」

「だからやめろ。ほらみろ、鳥肌立ったわ」

 じゃあどんな関係なんだよと怒鳴れば、うるせえ先輩だなと笑われた。

 俺もこいつも疲れていて、もう一歩も歩けない。それなのにこいつはケラケラ楽しそうに笑うのだ。それが酷く不自然で、しかし声を聴いていたら肩の力が抜けた。

「俺は、あの娘にひどい事をしたんだ」

「うん、それも知ってる。でもあいつ、怒ってないだろ? あいつの中じゃ、もう終わったことだ。あんたもそろそろ現実に戻って来いよ。こっちもなかなかいいもんだぜ?」

 何を言われているのかわからなかった。でも確かに、俺はもう何年も夢の中をさ迷っている気分だった。

「ああ、そうだな。現実に戻るのもいいもんだな」

 空には数えきれないほどの星々。

 なぜか涙があふれた。


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