久々のネッドがうざい
ビロード張りの椅子に座って顔を覆う男を半目で見る。
「ひどい」
「うるさいわね」
「また浮気してる」
「してないわよ」
しくしくと泣きまねをするネッドにイライラした。
借り受けた客間に登場したネッドが、私がアンと一緒のベッドで休んでいることにショックを受けたらしい。
キングサイズのベッドなんだから、女の子が二人寝たぐらいじゃいっぱいにならない。
落ち着いたグリーンと白で纏められた部屋は存外居心地がいい。
「こんどは女と浮気なんて・・・・俺の何が気に入らないんですか!?」
「夜中に天井に張り付くところかしら。眠いんだから静かにしなさい」
デリカシーのない男だわ。
久々に顔を見たと思ったら、なぜ泣きまねなのか。こいつさては暇だったな?
「俺はお嬢さんを影ながら見守っているのに・・・浮気なんて・・・」
「あ。そーいちろーに、全部終わったら打ち上げするから予定空けとけって伝えておいて」
「またそうやって別の男の名前を出す! まず俺を労わってください!」
夜中に天井に張り付いていた以外、こいつが何をしていたのかわからないんだから、労わるも何もないと思うんだけど。
「起きたらお風呂だから、用意しといて」
「俺がいれますからね! もっこもこの泡だらけにしてやりますからね!」
きいぃって叫んでいるけどあんた、周りの人間の顔を見なさい。全員あんたにドン引きしてるわよ。
「ここの女官に勝てるなら言いなさいよ」
「あ、無理です」
へにょりと乙女座りをすると、まるで捨てられた犬のような目でうるうると見つめてくるネッド。
マジで眠いんだから後にしてよと手を振って布団にもぐった。
ネッドがまだ何か言っているが、温かく柔らかい布団の誘惑にあらがえるはずもなく、すぐに眠りに落ちた。
数時間は経ったのだろう。変な時間に眠ったからか、わずかに痛む頭に眉を寄せていると、オレンジの瞳の男が土下座していた。その彼の上に座るネッド。
余計に頭が痛くなる光景に、思わず低い声が出た。
「何をしているの」
「どこの馬の骨とも知らない男を、ほいほいひっかけるお嬢さんが悪いんです」
「その人はここの騎士でしょ。ほら、知らない人じゃないわ。だいたい、あんたたちが厳重にしすぎて出られなくなった地下牢から出してくれた人よ。まずあんたたちはその人に謝りなさい」
「いやです、俺は旦那様の命令に従っただけです。だいたい、俺がお嬢さんを助け出して「ネッド、今日も素敵ね」って言ってもらうはずだったのに、俺の良いところ、こいつがかっさらっていったんですよ!?」
どこかにハリセンはないかしら。こいつをぶん殴りたいわ。
「ネッド、今日も素敵、あなたが一番よ。だからおりなさい」
「おります」
ちっ、いちいち面倒な子ね。ってちょっと! なんで降りた後で騎士の頭をぐりぐり踏んでいるのよ!?
「ネッド! その人わたしが貰うんだから!」
「ほらやっぱり! そのメイドといい、この出来損ないといい、お嬢さん連れて帰る気満々じゃないですか!」
だってクーデター起こした騎士が無事で済むわけないもの。裏に国王がいたからって、お咎めなしなんてありえないでしょう。さっさと逃がして、ついでに妹を守ってくれる存在になってくれるとお姉ちゃん的には嬉しいじゃない!
アンも面倒見がいいから、ぜひ妹についてほしいわ。
「お土産にしようとおもったの! テラに丁度良さそうだから!」
ぐりぐり動いていた足が、ぴたりと止まる。
「・・・本当ですか?」
「わたしにはあんたが居るでしょ!?」
「・・・そうですよね」
なぜか照れたように腰をくねらせるネッド。いいから足をどけなさい。
「じゃあしょうがないですね。もう、お嬢さんったら、先に教えてくれたらいいのに。もうちょっとでこいつのムスコ切り落としてやるところでしたよ」
さっと股間を守る騎士に頭痛が再発する。
「おやめ、まったくなんて下品なの」
「拷問の初歩ですよ!?」
「お黙り!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいたら、アンがうなりだした。しまった、うるさかったのだわ。
「アン!」
「・・・・ぁ」
掠れたような声だけど、いつもの優しい色合いの瞳は相変わらずだ。
「よか・・ぶじだった・・・」
自分のことよりもわたしの心配をしてくれたアンに涙がこぼれた。
こんなに酷い傷を負ってもわたしを守ろうとしてくれた優しいお姉さん。
ごめんなさい、わたしのせいでと何度も謝って泣いてすがると、しばらくしてアンは安心したように笑ったまま、もう一度眠りについた。




