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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
289/320

専用洗剤ってあるだろうか

 今にも死にそうな顔で王太子が登場したときはどうしようと思った。

 鼻血程度なら掃除も難しくないけど、なんかめちゃくちゃ汚い状態で歩かせたらしい。

 カーペットの染み抜き大丈夫だろうか。

 ここは新規のカーペットを購入してもらうよう誘導したほうが良いだろうか。

 いろいろ考えていると、大旦那さまが良い笑顔でのたまった。

「すぐにお掃除を開始しましょうか? うちの精鋭がお手伝いいたしますよ」

「ちっ!」

 王妃がわかりやすく舌打ちすると、何故か王太子と王太子妃がびくっと震えた。いや、あなたの母親でしょうよ。

「間に合うのであろうな!?」

「何をおっしゃるかと思えば・・・当然でございます。我がベルノーラ商会にお任せください」

 この笑顔はあくどいことを考えている顔だ。口を挟むと藪蛇になる。

「・・・ちっ」

 また舌打ち。色々大丈夫だろうか、この国。

「陛下、よろしいな?」

「うむ。仕方なかろう」

 国王は鷹揚に頷くと、すっと手を上げた。

 侍従がすっと書状をもって大旦那さまに近づき、深々と頭を下げる。

「ええ、ではお支払い及び契約はこちらで完了でございます。半日ほどで終わりますゆえ、本日はゆるりとお過ごしください」

 どうやらベルノーラ商会が責任をもって掃除をするらしい。黒服たちだけじゃあ足りないだろうから、恐らく店舗からも人を呼ぶのだろう。

「血液を落とす専用の洗剤を開発すべきでした」

「大丈夫。うちには優秀な子たちがたくさんいるし。新しい敷物も用意しているからね」

 これを見越して用意していたのだろうか、怖くて聞けない。

 ちらりと数メートル離れた場所で呆然と立っている王太子を見ると、彼もわたしを見ていたようだった。

 目が合うと、じっと見てくるので何だろうと見つめ返す。

「無事だったのだな」

「ええ」

「そうか」

 まるで安心したように小さく息を吐く姿は、わたしに対する敵意はなかった。

 少々意外だ。彼は切れまくって手が付けられない様子になると思っていたのに。

「陛下」

 王太子は縄で縛られていて体の自由はなかったが、わずかに頭を下げたようだった。

「なぜ、私を殺さないのです。これはあなたの願いなのでしょう?」

 国王は感情のない瞳で息子を見やり、それからふむと頷いた。

「王太子は流行り病で死んだ」

 うん?

「そなたはすでに王太子の地位になく、今後はその命尽き果てるまで結界の間にて魔力を注ぎ続けることを命じる」

 連れていけと興味のなさそうな声で近くの騎士に命じ、元王太子は怪我の手当てをされないままどこかへ連行された。いやまって、なんか背中にナイフの柄が刺さったままなんだけど!?

 王太子妃も続けて連行されたが、別の扉から外へ連れ出されてどこに行ったのかはわからなかった。

「昔も、息子が一人結界の間に入ったのだがね。アレは三日も持たなかった。まだ子どもだったからな」

 あれってなに、まさか息子のこと? 昔も問題児がいたの?

「愚かな親族に利用されたのですから仕方がありません。あやつならば一月は持ちましょうぞ」

 王太子の扱い酷いな・・・

「しかし陛下。我々は代金を頂けるのでしたらかまいませんが・・・本当にお支払いいただけるので?」

「あの者の命がどれだけもつかにもよるが、まあ払えるだろう。しばらく国境の結界の費用が掛からぬのでな。なるべくもつと良いのだが」

 はじめて、この男を怖いと思った。

 この男は自分の息子をモノとして扱うことを決め、その命で以て支払わせるつもりなのだ。結界があったことも知らなかったけれど、普段どれだけの犠牲の上で成り立っているのだろうか、この国は。

「そう案ずるな。普段は人死にさせぬよう、強力な魔導士たちが交代で魔力を注いでおるのだ。彼奴らに休みをくれてやる口実にもなるゆえな。まあよかろう」

 知らず、止めていた息を吐きだす。

「さて、では掃除を開始しましょう。リーナ、君は一度体を休めなさい。星祭りが終わらないと私たちは帰れないけれどね、君が疲れた顔をしていたら皆が心配してしまうからね」

「はい、大旦那さま」

 追い出されるようにして広間を出たわたしは、外にぼうっと立っていたオレンジの瞳の騎士を見つけて手を伸ばした。

「え?」

「わたしは疲れたの。護衛して」

「や、俺は・・・」

「護衛して。あなた騎士でしょ」

 騎士の目が潤みだし、何かをこらえるように私の手をぎゅっと握った。

「はい。あなたをお守りします」

 跪いて深々と頭を下げる男に、当然とばかり頷いて歩き出した。

 どこか開いている部屋を借り受けよう。ふかふかのベッドで眠りたいが、その前にアンをちゃんとした場所で休ませなくちゃ。

 そう思って足を進める私を、オレンジの瞳の騎士がジッと見ていた。


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