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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
286/320

開かない瞳

 届けられた薬を使っても、アンが目を覚ますことはなかった。

 今は体が休息を求めているから、どうしても眠る必要があるんだって近くにいた他のメイドが教えてくれた。

 額や背中の傷は、完全には消えなかった。

「改良が必要ね」

「これ以上は難しいかと」

 不自然に短くなった髪の毛も、綺麗に整えなければならないだろう。

「アンはどうして、こうなるまで、あの女の言うことに逆らい続けたのかしら」

 何をしたのか聞かれたのだったら、答えてしまえばよかったのだ。あの女にわたしを殺す権限はない。多少の嫌がらせをしようにも、もう事が起こるには時間の問題だった。

 何せ星まつりはもう直前だ。

 あとせいぜい一日、二日我慢すれば良かったんだ。

 それに扉だって簡単には開かなかったはずだ。それなのに。

「アンが、言っていました。地下牢で女の子がたった一人で我慢しているって。あたしたちよりもずっと小さな手で頑張ってるんだって。あんな寒くて暗くて、怖いところでって」

 名前も知らないメイドが近寄ってきて、アンの頭をそっと撫でる。

「この子、家に帰ることが出来ないから・・・あたしたち下級貴族は逃げたくてもこの城から逃げられなくて。いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってました。でも、何もここまでしなくても・・・」

 ぼろぼろ涙をこぼしながらアンを撫でるのは一人だけじゃなかった。

「何もできなくて、ごめんね。アン・・・あなたも、一人で怖かったでしょう?」

 何人ものメイドがわたしの背中をそっと撫でる。

 そうか、アンは一人じゃなかったんだね。放置したくてしてたわけじゃないんだ。この場所に置かれていたのは、ここが一番日当たりがよくて暖かいから。

「おじょーさん。旦那様が到着したみたいっす。行きましょう。そのメイドは寝てるだけなんでもう大丈夫っすよ」

「・・・」

 ぎゅうっとアンを抱きしめて、それからそっと横たえた。

「帰る場所なら、わたしが作ってあげるわ」

「何その男前発言。惚れるわー。って、そんなんどうでもいいんで行きますよ!」

「残党がここに入れないようにしておきなさい。迎えが来たら行くわ」

「うええ、俺っちが怒られるんですよぉ!」

「はあ?」

 だから? と睨みつければ、ひいぃって情けない声で泣き出した。なんだこの黒服。今までにない感じの子ね。

 泣きながら建物内のいたるところを確認しだす男。一応仕事はするらしい。でもさすがに爆弾をしかけるのはどうかと思うのよ。

「あ、ほら、お迎えあれじゃないっすか?」

 男が指さした方を見ると、いつかの騎士団長が大変そうな様子で中に入ってきた。

「お迎えに上がりました。ベルノーラ商会のお嬢さん」

 まあこの巨漢じゃあ、バリケードも大変よね。ご苦労様と思いながら見つめていると、何か勘違いをした様子の彼は一瞬固まり、そして素早い動きで私を抱き上げた。

「怪我をなさったのですか!」

「・・・わたくしの血ではないわ。下ろしなさい」

 耳元で叫ばないで。だいたいなんで騎士団長が直接くるのよ。あんた明らかに王族派じゃないの?

 疑いの目で見ていると、見た目はクマのように大きいのに、その瞳は傷ついたと言わんばかりに曇る。ええい、面倒くさい!

「あの王太子のそばに居たあなたが、ここに来るなんてね」

「勘違いをなさっておられます。私は国に仕える騎士。陛下のご命令に従う者です。あなたは私の顔を知っている。知っている顔の方が安心すると思ったのです」

 一度も牢屋には顔を出さなかったくせに、とはさすがに言えない。

「それで、わたくしにどのような御用かしら」

「ベルノーラ商会の当主がお越しになりました。現在広間にて陛下と謁見なさっておいでです。あなたのお顔をみればご安心くださり、その怒りを鎮めてくださることでしょう」

 怒ってるのか、面倒だなぁ。

「お金を踏み倒そうとしている相手を前に甘い判断をする方ではないわ」

 なんせうちのボスですからね!

「金銭はきちんとお支払いいたします。しかし、その前に怒りを抑えてほしいのです。こちらとしても不敬罪で捕えたくはないので」

 たしかに、うっかり不敬罪になりそうではあるわね。

 ちっと舌打ちしたい気持ちを必死に押し殺し、ようやく下ろされた足で立つ。

「参りましょう」

「よかった」

「ところで、わたくしをここに運んだ騎士はどこかしら」

「・・・怪我の手当てをしていました。残党とやりあいましたので。しかし皆生きていますよ。まるで奇跡です。残党二十人に囲まれて、たった四人で生き残ったのですから。今は・・・王太子たちのそばにいると思います」

 それ多分、うちの黒服も手伝ってると思うんだけど。まあいいか。


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