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これは優しいお話です  作者: aー
7歳 家族になりましょう
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アレクの思い sideアレクセイ

 リーナが怪我をした。

 大したものではなかったけれど、ナイフで首を切られた。

 女の髪を切ることも信じられないというのに、同じ貴族が彼女を傷つけた事実が私は許せない。

 我が子爵家よりも格上のハーバード侯爵家。貴族たる資質すら持たないなんて許せない。

 でも一番許せないのは、守ると誓ったはずなのに何もできなかった自分だ。

 リーナは何度も大丈夫だと言った。ありがとうとも言った。

 でも何が大丈夫なんだ。そんな言葉を言わせた私は、感謝される理由がない。

 見習いの後の護衛たちからのしごきはより一層激しさを増したが、正直なところとても助かっている。今は何かに打ち込みたかった。

もっと強くなりたい。もっと、次こそはちゃんと彼女を守れるようになりたい。

 もっと、もっとだ!

「まあたいへん。アレクがきんにくムキムキになっちゃう」

「は?」

「アレクはしょうらい、きしになるの?」

「違うよ、どうしてだい?」

「だって、さいきんどんどん・・・」

 不安そうな顔で何を言い出すのだろう。私は君の心も全部守りたいというのに。

「ねえアレク。わたしね、いつもアレクがいてくれるからうれしいの。アレクはちゃんと、わたしを守ってくれているのよ」

 歴史の講義をしていたら急にそんなことを言い出したリーナ。

「・・・守れてなんていないよ。まだ全然足りない」

 そっと、私の手に小さな白い手が乗った。暖かい、子ども特有の高い体温が心地いい。

「アレク。どうして、そんなことをいうの?」

「だって君を守れなかった」

「あなたは来てくれたわ」

「でも間に合わなかった」

 君を守るのは私の役目だったのに。

「アレクって、おばかさんね」

「え?」

「あなたがいてくれるだけで、うれしいの。ちゃんとわたしの心をまもってくれた。ありがとうアレク」

 でもどうか、もう無理はしないで。と小さな声が続いた。

 無理なんてしてない。まだ全然足りないんだ。

「私は・・・」

 私は、彼女の言葉に応えることが出来なかった。


 その夜、私はワイズ様の部屋を訪れていた。

「ワイズ様、以前頂いたお話の件ですが」

「入りなさい」

 声の主同様簡素な下手だが、一つ一つのものは高価で上品な作りになっていた。

「騎士団に、入ろうと思います」

「・・・」

「今の私では彼女を守ることはできません。騎士団に入って、集中的に鍛えたいのです」

 商人になるはずだった。それが一番いい道だと思っていた。でも今は。

「私は彼女を守りたい。でも今はそれができない。できる自分になりたいのです」

「本気ですか?」

「はい。いつか必ず戻ってきます。彼女が成人するまでに必ず」

 それまでに地位も名誉も実力も富も全て手に入れる。ただ一人の女の子をもう二度と悲しませないために。

 リーナは今七歳。後九年ある。

「・・・わかりました、旦那様方はわたくしが説得いたしましょう。精進なさい」

「ありがとうございます!」

「リーナさんには、ご自分で伝えるように」

「はい」

 でもきっと、それが一番難しいんだよなと、私は心の中で呟いた。


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