雪女ってこんな感じかと見つめてしまう side総一郎
白くきめ細かい肌に、絹糸のような黒髪。知性的な黒い瞳。
昔話にでてくる雪女みたいだと思ったのが素直な印象だ。
久々にお目にかかった同郷の顔に、この世界に呼ばれる基準はまさか顔じゃないだろうなと疑ってしまう。
他国にいるという同郷の迷い人だった。
わざわざ救助のために足を運んでくれたらしい。
「わたくしの顔に何か?」
「いや、めっちゃ美人だから驚いた。あなたがプリーティアだよな? 結構患者多いけど大丈夫か?」
「ええ。といっても完治は難しいかもしれないわ。この国には神々の力がほとんどないみたいだし。わたくしが引き出せるのは僅かなモノかもしれないわね」
少しだけだるそうに言う女に、だから他の国のプリーストもプリーティアも来ないのだと納得した。全力を出せない状態で働くのは辛いのだろう。
「来てくれてありがとう。あなたのことは友人から聞いていたが、本当に助かるよ」
「いいのよ。はやく終わらせて夫のもとに帰りたいし、さっさと始めましょ」
見た目にそぐわず、ざっくばらんな態度だが逆に好感が持てた。
「おう」
「あ、そうだわ。これ、全部解決したらお願いね」
「なんだ?」
「請求書よ。わたくし、プリーティアは引退しているの。旅費やら治療費やらその他もろもろ。この国に支払ってもらうわ」
え。
「なによその顔。当たり前でしょう? 慈善活動じゃないのよ」
神殿も世知辛いんだなと遠くを見てしまった。
「じゃあなんで来てくれたんだ?」
「リーナちゃんが、美味しい海鮮食べに来ませんかっていうから」
あいつ、なんつー誘い文句を。
「帰りの船の手配は済んでるから、どっちみち港に行かなくちゃだし。久々に同郷の人にも会いたかったし。そういえばあなたもよね? リーナちゃんから話はもらっているわ。総一郎よね? わたくしはユーリでいいわ」
「俺も、ソウでいいよ。まあなんだ、こんなヤバいところに来てくれただけでも嬉しいよ。だけど、帰りの船の手配ってことは時間制限あるんだよな?」
「別に、一月程度かからないでしょうし。折角違う国に来たんだから、この国のお酒も楽しみたいし」
プリーティアって、元とはいえ、神に仕えていたんじゃ・・・酒って・・・
「それに、彼も待ってくれるわ」
「旦那さん?」
「いいえ、友人よ。船を出してくれるの」
「そっか。良い友達がいるんだな。俺もこれ終わったら旨い魚食いに行こうかな」
「ええ、ぜひ一緒に行きましょう! リーナちゃんが美味しいお店を知っているらしいわ」
何そのご褒美。その言葉を噛みしめていたら物陰から俺たちを見つめていた上司が呟いた。
「絶対行かせないからな。俺の胃に穴があきまくって、ついでに髪の毛が更に薄くなっちまうだろうが。行くなら辞表だしてけ」
「了解です! これから書きます!」
「もうやだ、この思い切りの良さ!」
なんかわめいていたが、まあ無視する。
くすくすと綺麗な声で笑う女に一瞬見とれたが、この手の女に捕まると大変そうなので、俺は見なかったことにした。
はやくこの現状をなんとか打破しないとな。
そう心に誓い、雲に覆われた灰色の空を見上げた。




