各地で起こる混乱 sideベルノーラ当主
「ある程度知らせておいて良かったというべきか」
特殊な狼煙を確認したベルノーラ商会各地の店長たちは一斉に休業を発表した。
王都よりも地方のベルノーラ商会のほうは、星祭り直前の書き入れ時である。
それにも関わらず、彼らは迷いなく店を閉め、各地の商業ギルドを通して王族への苦情を申し入れたのだ。
どのような手を使ってでも代金を取り戻すベルノーラ商会が本気になれば、国一番の祭りすら中止になる。
各地の有力者には可能性を伝えていたため大きな混乱は見られない。
しかし王太子派の貴族が収めている街や町へはもちろん伝えていないため大きな混乱となった場所もあった。
「他商家への納入はすでに完了、お得意様への納品も全て完了しています」
「さすがだね」
「商業ギルドから苦情が届いたのは、やはり王太子派のところばかりですね。逆にやり返したみたいですよ」
「うちの子はみんな優秀だね。リーナの安全はどうなってる?」
「ここ最近働きづめだったため、現在は地下牢で爆睡しています。環境があまりよくなかったので、こちらから毛布を一枚差し入れました」
黒服からの報告を聞きながら、うんうんと頷く。
「あの子には苦労を掛けるね。今度ご褒美をあげなくては」
「新薬を試したいとか言って、睡眠薬を服用したようです。大人用のものですから、すぐには目を覚まさないでしょう。お嬢さまがお飲みになるには少々危ないんですが」
リーナの実年齢はネッドから報告を受けている。まあ大丈夫だろう。
「あと、王都北側の街で暴徒化した民が暴れています。商会員とその身内は非難させました」
「王太子派の連中のほうかな。馬鹿だねえ」
「羽振りがいいのは一部の王太子派の連中だけですからね。王太子が王都で焼き討ちを行った挙句、民の救済に乗り出していた少女を不当に拘束なんて噂が流れればそうなりますよ」
流したのは君じゃないかな? なんて野暮なことは聞かないけどね。
「総一郎たちはどうなっている?」
「被災者救援に紛争しています。彼は憲兵隊から正式に救助隊の隊長という扱いになっているようですね。堂々と神殿の連中と協力していますよ。今や王都で彼を知らない人間は王太子派の連中だけでしょう」
瓦礫の撤去から怪我人の手当て、毎日の炊き出しに新しい仕事の斡旋。目を見張る働きぶりだ。
「うちに来ればいいのに」
「ですね」
「で、肝心の王太子はどうなってる?」
「まだ毛布が変わったことにも気づいていません。ただし、城の中の空気は最悪です。なにせ王妃が懇意にしているベルノーラ商会を敵に回しただけではなく、自分が国王であるかのようにふるまう様子が使用人や役人、そして騎士隊にも悪い影響を与えています。排斥されるのは時間の問題かと」
「もう星祭りまで時間がないだろう。この機に全て収めてくれるといいが」
長引くようならばベルノーラ商会は他国に移すという手もあるな。
私は友を見捨てられないためこの地から離れるつもりはないが、商会は息子たちに全て任せるという手もあるのだ。
「さて、王は今何を望んでいるのやら」
私は貴族ではない。貴族の義務などしったことか。
この手に、守ると決めた全てを守りきるために動くだけだ。
「リーナの安全は最優先にしなさい。あの子を失うのは惜しい」
「はっ」
今や実の子より可愛がっているリーナを王家ごときに取られてたまるものか。
「支払い期限は延ばさない。遅れている分についても全て回収しろ」
「承知」
黒服の気配が消え、家令が入ってくる。
「総一郎殿よりご報告が入っております」
「おや、珍しいな。どうしたんだい?」
「他国より、プリーティアが到着したそうです。プリーティアの保護及び、移送にベルノーラ商会の馬車を無償で借り受けたいとのことですが」
うちの馬車をタダで貸せと言えるのは、世界広しとも彼だけの気がするよ。
「プリーティアねえ、使えるのかい?」
「なんでも、総一郎殿たちと同じ世界からやってきた迷い人のようです。神殿よりも憲兵隊で預かるとか」
神殿の人間をなぜわざわざ・・・まあいい、次回の報告を楽しみにしよう。
「一台ならいいよ」
「そのようにお伝えいたします」
深々と礼をして出ていく家令を見送り、さてと立ち上がる。
「私もそろそろ動こうかね」
全額回収には私が直接出向く方が良いだろう。しっかり利子もいただかなければ。




