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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
274/320

騎士団長の覚悟 sideエグバート・ガルニエ

 王都生まれの王都育ち。侯爵家の者として恥ずかしくない教育を施され、妻子に恵まれ、部下にも恵まれ、命を懸けるべき王にも恵まれた人生が、ここにきて暗雲立ち込めている。

 次期国王に選ばれ立太子した殿下は、今や自らが王であると言わんばかりの態度で強引な政策を進めている。

 各ギルドや神殿に憲兵隊、一部の商会などが協力してスラムの者たちを逃がせたのは、本当にギリギリだった。

 だが匿うにも場所がなく、現在は王都外の森に潜ませている者も多く、今後の治安に不安が残る。

 いつ王太子派の連中に気付かれるか、時間の問題だろう。

 信頼できる部下たちを数名派遣し、寝る間もなく働かせているが、それもいつまで持つか・・・

 先日会った一人の少女を思い浮かべると、またため息が出てくる。

 初めて出会った時は王妃の執務室であった。黒い髪をなびかせ、かわいらしく微笑む少女。ベルノーラ商会の者として恥ずかしくない教養があることは一目でわかった。

 私に対して無邪気にふるまう姿も、年齢を考えると容認できる愛らしさだ。田舎から出てきて間もない少女。人によってはもう結婚していてもおかしくはないが、貴族ならばまだまだ学園に通っている年齢だ。

 少なくとも王太子妃よりは好感を持てる曇りなき眼だった。

 そう、陛下と相対するまでは。

「お初に御目文字仕ります。王国の太陽、国王陛下におかれましては、ご機嫌うるわしゅう」

 すらすらと口上をのべ、大貴族当主ですら緊張する相手に対して笑みを浮かべた少女。

 見た目に騙された。これは少女などではない。社交界を牛耳るほどの度胸と行動力を持った貴族の当主並みの図太さだ。

 海千山千の配下たちも驚いて目を見開いた。

「しかし陛下、本当に宜しいのでしょうか。本日だけで恐ろしい金額をお使いになりましたが」

「言うな・・・あやつ、まさか最後まで書類を確認しないとは。普段からああなのか?」

「普段は部下に任せていることも多いようです。魔物討伐の際などは確認しているようですが、今日のとおりならば、学園の頃の書類から怪しいですね」

 王族は貴族学園に通う義務がある。十歳から寮に入り集団生活をしつつ、多くの場合自治会の会長として学園の運営にかかわるのだ。そこで人を使うことや金の流れ、様々な職務の者の動きを学ぶ。貴族学園は一国の貴族の姿を学ぶ場所として最適なのだ。

 かの王太子ももちろん通っていたが、これでは人任せにしてきた仕事も多いのでないかと疑ってしまう。少なくとも、立太子したとたん民を焼き払ったことは、多くの貴族からも反感を抱かれてしまった。

 一部高位貴族は領地運営のためと言って自治領へ引っ込んでしまった。そろそろ星祭りだというのに、これは異例中の異例だ。

 なにせ、星祭りに参加しないと言っているようなものだからだ。

「私が立太子したときは客が多く休む暇もなかったというのに・・・」

「陛下は早々に逃げ出しては王妃様に飛び蹴りをくらっていましたね」

 毎日ひっきりなしにやってくる来客に嫌気がさして、わずか二週間で夜逃げしようとした陛下が現在の王妃に飛び蹴りをくらい、城門近くで飛ばされたのを見たときは度肝をぬいた。あの頃はまだまだ新人で、私は夜番として場内を見回っていたのだ。

「本当に、我妻の足はたまらん。毎日踏んでくれることを条件に城に残ったのだ」

 ここに王妃陛下がいなくてよかった。絶対零度の眼差しを向けられることだろう。

「しかし王になったとたん、王自ら外遊に行かされ踏んでくれなくなった」

 昔は情勢も良かったため王が外に出ることも少なくなかったのだ。様々な理由から王族が少なかったためでもある。おかげで我が国の平和を世界に示すことができたのだ。

「それで他の妃をお選びに?」

「あれが、他にも娶れというからな」

 奥方に別の妃を娶れと怒られ、不貞腐れる男の悲しい姿よ。

 何人の女を娶っても、陛下の一番は王妃だけだ。それは誰の目にも明らかで、後宮で腐っていく女たちは哀れであり、醜い存在でもあった。

「さすがと言いますか、貴族の女性らしい考えですね」

「私の相手を一人でするのは嫌なのだと言われた。たまにはゆっくり眠りたいと」

 返す言葉を悩む空気を払拭すべく、私は口を開いた。

「陛下。して退位のご準備ですが、計画通りに進めさせていただきます」

「うむ。ああそうだ」

 王が良い事を思いついたという顔で私を見上げた。

「は」

「王妃に会う靴を用意してやってくれ。ご褒美に踏んでもらう約束なのだ」

 全力で聞かなかったことにしたいが、それに関しては報告があった。

「ベルノーラ商会より、王妃陛下に似合う靴が届きました。本日のお礼だそうです」

「おお!」

 私の掌をこれでもかと広げて、親指から小指までの長さがありそうな、ハイヒールのピン。これで踏まれたら体に穴が開くのではないかと思うほど細く長いピンにゾッとしたのは内緒だ。


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