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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
270/320

どんどん売っちゃうよ!

 持ち込んだドレスのうち、王妃用一枚、女官たちの制服用一枚が売れた。王妃専属の女官たちは全員で四人。メイドや下女を含めると六十人はいるらしいが、今回は女官のみ仕立て直す。着替えも合わせると三セット購入してくれるそうだ。

「色違いにしても楽しいと思いますが」

 まるで人を、得体の知れない存在のような目つきで睨みつけながら、生地の見本を女官の一人に渡す王妃。嬉しそうに、大切そうにそれを抱きしめる女官に笑顔をふりまくわたし。

 さあ、好きなものを選ぶといい。できれば高い生地にしてね!

「全て同じでよい。多少動きやすいように、生地は選んでおくれ」

「はい、陛下」

 いそいそと女が離れると、王妃がはあとため息をついた。

「ラフ画をおよこし」

「ドレスに会う小物類や、別のドレスのラフ画です。どうぞご覧ください」

「扇子やハンカチーフまで・・・この宝石は間に合うのかえ?」

「現在あるものを細工します。最初から作るわけではないので、時間も値段もご期待に添えると思います」

 ただし特急料金は別途いただきますがね。

 ふふん。どんどん売りつけてあげるわ。

「立太子のお祝いも兼ねておりますもの。きっと素敵な宴になりますわ」

「よう言うわ」

 はんっと鼻で嗤われても怖くないもんね。ベルノーラ商会の奥さまのほうが何倍も怖いよ!

 その時、楽しい時間の終わりがやってきた。突然部屋のドアが開き、見知らぬ男がわたしを睨みつけてきたのだ。

「母上、お邪魔します」

「許可した覚えはない」

「父上に許可をいただきました。後ほど、そこな娘を連れてくるようにと」

 会話の内容から、こいつが王太子だろう。

 イロアス王子がまだまともに見える。

 不機嫌を隠そうとしない深緑の瞳。短い金髪にほどよくついた筋肉。腰に下げた剣は少々飾りが目立つ。あまり実用的に見えないそれに目を向け、もう一度男を見上げた。

「私に礼もないのか」

 王妃がまたため息をついて一言。

「リーナ、これが王太子じゃ」

 王妃も大変だね。こんなのが世継ぎとか笑い話にもならない。

「お初にお目にかかります、王国の新しい太陽、王太子殿下。わたくしはリーナ。ベルノーラ商会より参りました」

「ふん」

 上位者に向けるカーテシーを披露すれば、馬鹿にしたように男が笑った。

「王太子に向けて、そんなカーテシーしか出来ぬとは・・・拾い子だから仕方がないか」

 ここが君の家で良かったね。ベルノーラがのさばる場所だったら瞬殺だよ。

「なにぶん、田舎者ゆえ、無礼をお許しいただけますと嬉しいですわ」

 何もわからないふりを見せると、王太子は「まあ、そうだな」と頷いた。その時、後ろに立っている一人の騎士がわずかに眉を寄せる。

「そちもともに居るとは・・・リーナ、あれは騎士団長のドルイド・ジェインだ」

「はじめまして、騎士さま。リーナでございます」

 にこりと笑い、少し下の人にするようなカーテシーを披露すると、彼は目元の皺を深めて笑みを浮かべ、騎士の礼を取った。

「お初にお目にかかる、リーナ嬢。お会いできて光栄だ」

「わたくしも、あなたさまにお会いできて嬉しいです。騎士さま」

 ちょっと子どもっぽかったかしら。まあおのぼりさんっぽくて良いかな。

「王妃陛下、国王陛下がリーナ嬢をお呼びです」

「うむ。では行くか。王太子よ、このラフ画を王太子妃に見せてやるとよい。喜ぶであろう」

 王妃が選ばなかったドレスのラフ画だ。

「わかりました。リーナ、王太子妃のために良いものを作れ」

「まあ、光栄ですわ。よろしければ、こちらの生地見本もお持ちくださいませ。王太子妃さまのために、急いでドレスを作りますわ」

 一番高い生地だけを集めたものを手渡すと、王妃がわずかに眉を寄せた。

「よい心掛けだ」

 満足そうに頷くと、部屋の外にいた護衛らしき男たちと歩き去る王太子。

 なるべく高い生地のドレスを買ってあげてね。全力で巻き上げてあげる。借金まみれの王になるがいいさ。


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