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これは優しいお話です  作者: aー
7歳 家族になりましょう
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世界一可愛いぞ!

ジェシー・ハーバードの一件は、瞬く間に街に広がった。ベルノーラ家はコネと財力を惜しみなく発揮し、ハーバード家との取引を強引に打ち切った。

 ベルノーラ家は商いの一族だが、いたる場所に病院や教会をもち、また流行の最先端をいくと王都でも人気らしい。二代前のお妃さまがドレスや宝飾品を購入するのにベルノーラ家を愛用したのが更に人気を博する理由となった。

 そのベルノーラ家から一切の取引の即時中止、撤退を余儀なくされたハーバード家は、今では医者にかかることも難しいぐらい大変なことになっているらしい。

 社交界からもつまはじきにされるだろうとアーシェがとても良い笑顔で言っていた。

 さすがにちょっとハーバード家がかわいそうな気もするけど・・・

 実はあのあと、本当に大変だったの。

「泣かないで、シシリーさん」

 ここ最近とても仲が良くなったシシリーは自分のことのように悲しみ、

「泣かないで、テファさん」

 自分のせいだと落ち込んで辞表を握りしめるテファを全力で留め、

「怒らないで、お父さん」

 無言で殺気を飛ばす父をなだめ、

「えっと、みんなも、大丈夫だから」

 アーシェはじめギルドメンバーの殺気が形になって見えそうなくらいだった。

 なだめるのに夜中までかかるなんて・・・

 あのあとから、私の護衛は目に見える形で置かれることになった。

 アレクは口数が減り、その変わり目に見えて大きな傷をつくるようになった。

 どうも責任を強く感じているらしく、仕事の後に護衛たちに護身術を習っているらしい。真面目で優秀なアレクでも傷だらけになるなんて、きっととても大変な訓練なんだろう。あんまり無理をしないでほしいけど、彼はかたくなに頷かなかった。

 私の髪はシシリーが散髪してくれて、とても可愛いボブカットを満喫している。寝癖が付きやすいのが難点だけど、軽いし可愛いからまあいいかという感じだ。

 子どもの髪なんてすぐに伸びるんだから別に気にしていないのに、ちょっと首の皮が一枚切れただけで大騒ぎなのが信じられない。

「なあリーナよ、どうして君は怒らないんだ?」

「え? うーん。怒る前にみんなをなだめるほうが大変だった」

「いやまあ、それは面目ない。じゃなくて! 他に思うところがあっただろう? あのクソ生意気なガキ絞殺したいとか殴りたいとかとび蹴り食らわせたいとか」

 それって全部アーシェの願望では・・・

「でもね、アーシェおじちゃま。人はまちがうものよ。もういいじゃない」

 フレスカさんにお茶を淹れて頂き、現在ギルドにてティータイムを楽しんでいた。

 ギルド内ではおじちゃまと呼びなさいと言われたので変わらずそう呼んでいる。

 なんだか本当に変態くさい人だわ。

「ふむ。君は我々が大事に思っている君自身の価値をよく理解していないようだ」

「・・・シシリーさんに思いっきり怒られていたもの。あの子。だからもういいの。わたしは、あれでスッキリしたから」

 あれはかなり痛かったはずだと思わず遠目になる。

「それに、怒っていなかったわけじゃないわ」

「ほう?」

 テファに武器を向けた少年に対して、本当に許せないと思った。たとえそれが脅しであったとしても、してはいけないことだ。

 だからあの笛を使った。

 笛を使うのは本当に危ないときだけだと言い聞かされていたのに。

 正直、シシリーに叩かれた彼を見て少しすっきりしたのも本音だ。

「まあいい。しかし意外だったのはテファだな」

 テファは責任を感じて髪を切ってしまった。今は私と同じボブカットだ。あの事件が起こる前までは腰までの綺麗な髪を持っていたのに。

「・・・テファはたすけてくれたの」

「女が髪を短くするのは、あまり良いこととは捉えられない。それだけテファは責任を感じたんだろう。だが、あれでは婚期が遅れるかもしれんな・・・うちに勤めていればある程度良い相手が見つかるもんなんだがな、普通は」

 アーシェもそれを気にしているみたい。

 なんせあの後、私の髪を見て奥様は失神し、翌日テファの髪を見てまた失神するという驚きの事態に発展したのだ。それはもう大騒ぎだった。

 髪の短い女は何かの罰を受けているモノとされて忌避される傾向が根強い。だからこそ私の髪が切られたのを見たシシリーたちはとてもショックを受けているのだ。

 なんという思い込み・・・

「なら、はやらせちゃえばいいのに」

「うん?」

「アーシェおじちゃま。わたし、かわいい?」

「可愛いぞ! 世界一可愛い!」

「ほらね、みじかいのも、かわいいでしょ?」

 ハタと気づいたような顔でアーシェはまじまじと私を見る。

「・・・そうだな。可愛い。とっても、可愛い」

 そして何かを考えるように押し黙ってしまった。

「リーナさん、もう一杯いかがですか?」

「わあっ、いただきます!」

 フレスカさんにもう一杯お茶を淹れてもらい、それを飲みきるまでアーシェは一言も口をきかず真剣に何かを考えているようだった。


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