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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
265/320

数年ぶりに再会した友

 数年ぶりに会った総一郎は、シュオンの護衛をしつつ王都警戒の任務についていた。

 あのスタンピードの一件以来、どうも勇者扱いを受けているらしい。

 本物の元勇者は最近事務仕事に復帰したと聞いた。

「どうも王族が闇落ちしたらしい」

「もともと腐ってるもんね」

「言い方」

 食事をとる暇もないのか、自作のサンドウィッチを頬張る彼は、数年前よりも少し老けてみえた。

「お前はやっぱり、大きくならんな。いや、少し横にデカくなったか?」

「うるさいわよ」

 成長期なのよ。決して太ったわけではないわ。たぶん。

「お前んとこの貴族の結婚式の噂、こっちも聞いたぞ。ずいぶんと強引な手を使ったとか、魔物よりも恐ろしい辺境伯家とか、花嫁が実はもう死んでるとか」

「花嫁はそろそろ出産だから屋敷で大人しくしてるわよ。それよりもシュオン、あなたちょっと手伝ってちょうだい。王都の治安をなんとかしないと、うちの商会がつぶれちゃうわ」

「もちろんだ。なんでも手伝おう」

 基本的に無駄話をあまりしないシュオンは、ともすれば置物のような扱いになってしまうが、彼は特に気にするそぶりがみられない。

 目元の皺だけが彼の年齢を物語っているが、どうやって肌の質を保っているのか、きっと多くの奥方が気にしているところだろう。

「具体的にどうするんだ?」

 水筒の水をがぶ飲みしながら周囲を警戒するのは、ここが馬車の中だからだろう。

もちろん、すぐ外には黒服が変装して立っている。

「王族がどうしてこの現状を放置しているのか知りたいわ。それから、なるべく多くの人を保護したい」

「そのことだが、実は俺らの方にもちょっときな臭い話が回ってきた。数日以内にスラムを掃討する命令が下されているらしい。実際それがいつになるのかはわからんがな」

「そういう命令って、外にもれるものなの?」

「まさか! 俺らだって最初は信じられなかったぜ。でも持ってきたのが現職の騎士の一人だ」

「へぇ」

「騎士は王家に忠誠を誓うものと、王に忠誠を誓うものがいる。情報を持ってきたのは近衛騎士だ。偽りはなかろう」

 それって、王がリークしたってことにならない?

「立太子は済んで、実権は次の王に移るんじゃなかったの?」

「王族は、一枚岩ではない。膿を出し切りたいのは次の王とは限らないからな」

 そんなドロドロに巻き込まれた王都。最悪じゃん。

 スラムで育った子どもたち、大丈夫かなぁ。

「どうしたら、いろいろうまくいくのかしら?」

「方法は一つある。だが、まだその時ではない」

 真剣な顔をしたシュオンが不気味で、顔をしかめると、総一郎もそっと目をそらした。

「どうするの?」

「・・・スラム掃討作戦は決行される。だが、なるべく多くの民を救いたいと思う」

 邪魔は出来ないけど、被害は少しでも減らすってこと?

「できるの?」

「する。私はこれでも、プリーストだ」

 その瞳はどこか憂いを帯びていて、ここにどこぞのご令嬢でもいれば鼻血を出して倒れるんじゃないかってくらい色気があった。

 どこの化粧品を使っているのかしら。聞いたら教えてくれるかな?

「お前、真剣に聞けよ」

「うん、ごめん」

 だって歳をとって色気が増したシュオンが悪いと思う。

「で、具体的にはどうするの?」

「子どもたちに協力を依頼したい。だが人手が増えるとそれだけ危険も増す。事は慎重に、しかし素早く動かねばならない」

 そうだねと頷いて話の続きを促した。


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