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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
263/320

金策に走ろう!

 ともかく、ここしばらく被害額は売上数年単位の損害額になりそうだ。経営悪化は避けられないだろう。

「ちっ。しばらく新作は出したくないんですけど、子ども向け以外の新作も出しますか。ああ、文を追加してください。王妃に新作のご案内を」

「でもお嬢さん、新作出来てないんだろう? どうすんのよ」

 良い質問だ、黒服1。そんなことは決まっている。

「新作ドレスのデザインを仕上げます。祝いの席で女官に着てもらえるように、お仕着せ風なのを何枚か作ります。地下で集中してやれはなんとかなるわ」

「材料はお任せくださいませ」

 ここしばらく開店出来ないから材料に余裕があるのも救いだ。

 店長が白銀を使用した封筒を持ってきた。同じデザインのカードも添えられている。

 数日後に見本を送りたい旨をしたため、ベルノーラ商会の紋章を押す。

「オウジサマのと一緒に届けてください」

「かしこまりました」

「王族相手に、ついでかよ」

 ドン引きした冒険者を無視して次々に届く報告書を呼んでいく。王都周辺が一番被害が大きいところを見ると、王位継承がどれだけはた迷惑なイベントかがわかる。

 だいたい、なんでこんなに王都がダメになるんだ。むしろ祝い事だろうに。

「王族には、これらの被害を引き起こした責任を取ってもらわないといけません。街の治安に雇用拡大、祭りの成功。どれも失敗は許されません」

 実行犯は処刑しても、そのまわりにいた人たちを巻き込むようなやり方しかできなかった無能な官吏ども。いい加減にしろと言いたい。

「つっても、スラムは今かつてないほどの危険地帯だぜ。おじょーさんに何ができるってんだ」

「なぜわたしが直接手を出さないといけないんですか。騎士だろうが自警団だろうが死ぬ気で働かせればいいんですよ」

「簡単に言うぜ」

「それが出来ないなら、こんな国、滅びてしまえ」

 ガタっと目の前で棚が揺れた。冒険者の男が殴られたからだ。ちょっと黒服2、商品が台無しになっちゃうじゃない。

「もっと丁寧に」

「すんません」

 わたしに手を伸ばそうとした瞬間、黒服2に殴り飛ばされた男が素早く起き上がり腰の武器に手をやる。その手ごと鞘に押し込むように足をかけたのはネッドだ。

「両手切り落としてスラムに捨ててくんぞ。すぐにゴミ共の餌になるだろうな? 俺はお嬢さんに手出しするやつは敵だと決めている」

 ネッドがいつになく切れているが、まあいいだろう。

「ネッド、疲れているのね。あとで美味しいお茶を淹れてもらいなさい」

「俺の方が上手く淹れられます!」

「まあ、なんてこと。私の方が上手ですわ!」

 店長、そこじゃない。

「言い方が悪かったことは謝罪します。ただ、正直王族には残念な気持ちを抱いています。この程度の問題は想定済みだったはず。なのに、どうして対処ができていないのかしら? 王が変わるときに国が荒れることはありますが、そんな方法を取る時点で、この国に将来はありません。お尻を叩かれないと動けない官吏も、貴族も、王族も、迷惑でしかない」

 この機に膿を出し切りたいのかもしれない。それでも、そんなことはそっちでやってくれ。これだけの損害を無傷で耐えられる商会など存在するはずがない。

 しばらくは無給で頑張るかとため息が出る。

「お嬢さんの逃亡資金、しばらくは貯められないですね」

「大丈夫。そこはすでに確保してあるわ。でも外国船の相場がわからないのが痛いわね。ノアもそこだけは頑として教えてくれないのよ」

「お嬢さん、俺もさすがに泣きますよ。まあどこだってついていきますが」

「なんの話をしてやがる! 俺らの気も知らねえガキが!」

 冒険者が吠えたとたん黒服たちに思い切り蹴られて鈍い音が響く。

「店を汚さないでちょうだい。今はアホの手も借りたいぐらいここの治安は悪いのよ。遊ぶのは全てが終わってからにして」

 は~い、と全員から気の抜けた返事が返ってきて、少し疲れた。

「まずは当座の金を稼ぐわ。紙を持ってきて。お針子を呼んでちょうだい」

「かしこまりました」

 完璧な淑女の礼を見送って、わたしは地下へとつづく廊下に足を向けた。


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