王都までの変装について
「似合うかしら?」
王都に近づくほど治安が悪くなるため、今回も変装が必要になった。
ネッド以下男たちは、冒険者風の格好で旅をすることが決まっているが、わたしは力量不足が目立つため、少年の格好で、わざと重そうな荷物を運ぶことになった。ポーターと呼ばれる役だそうだ。
ただ、背負うカバンの中は主にふかふかの布団が一枚。かさばるだけで全く重くないので疲れもほとんどない。さすがベルノーラ商会の最高級品羽毛布団。
「似合いますけど、その口調はまずいっす」
黒服1が的確な指摘をくれたので、大きく頷いた。
「そうだね、気を付ける」
「いや、まだダメっす。もうちょい、普通のガキっぽいのでお願いします。なんか良いとこの坊ちゃんぽくて逆に狙われそうっす」
黒服1が更に言うので、なるほどと頷いた。
「りょーかい!」
「まあ、まだ・・・ましか?」
きっとましになったよ!
「大丈夫、リノ。立派に可愛い男の子に見えるよ」
ダメじゃん黒服その3。ちなみにリノはもちろんわたしの偽名だ。
「つーか、ちょっと小綺麗すぎんか」
確かに冒険者にしては、わたしたちは綺麗すぎる。だが王都に行くまでに適当に汚れていくだろう。
「歩いてりゃそのうち薄汚くなるだろ」
「俺のお嬢さんが汚くなるなんて耐えられない」
ううっ、と顔を覆うネッドは無視して、わたしは黒服2に向き合った。
「いけそう?」
「まあ、しばらく風呂とか我慢すれば?」
「わかった。頑張る」
体は大事なところだけ拭くようにして、着替えも数日に一度にしよう。冒険者のなかには二月に一度しか服を着替えない、ある意味強者もいるらしい。そこまでは嫌なので体は毎日拭くけど、装備が適度に汚れるようこれから進むらしい。
前回旅した時もわりと快適生活が保障されていたので、ちょっと自分でもどうなるのか予測がつかないけど。
そんなわたしの様子にみんなダメな子を見るような目で見てきたけど、それすらも普段とは違う扱いにわくわくした。
お嬢さま扱いが基本だったこの数年とは大きく変わったことの一つだ。ネッドだけは嫌がっているけど。
そんなこんなで、人通りの多い場所では徒歩、人の気配がない場所は相変わらずネッドに背負われての移動となった。
「あと三日ほどで王都につきます。ここからは治安が一気に悪化しますからね」
ネッドはそういうが、王都に来るまでの道も三年前より酷くなっていた。ボロボロになった街道、どこにでも目につく浮浪者たち。やる気を失った騎士の姿。見慣れない瓶を持ち歩く流れの商人たちは、安酒に中毒性の高いアヘンを混ぜて売っていた。賊の姿も目立ち、夜中でも気を抜けない日々。
わずか三年でここまで来るとは・・・
わたしたちの街はあの森のおかげで物理的に守られている状態だけど、もともと貧しい町は目も当てられない。
「王が変わるってだけで、こんなになるんだね」
「今回は王族たちの奪い合いが激化しましたからね。あのオウジサマが焦っていたのは婚約者の無事を確保したかったからでしょう。彼はこうなると分かっていたのですよ。何せ、今の王族はアホの集まりですからね」
誰かに聞かれたら文字通り首が飛びそうな発言をしながら、仕留めたウサギを焼いている黒服3。彼はウサギが好物らしく、二日に一度はウサギを狩ってくる。
ウサギは仕留めてから素早く解体しないと肉が臭くなるから時間との勝負だとニヤニヤ笑って語っていた。
わたしに、焼けた肉を一番に差し出した彼が言葉を続ける。
熱いけど焼いて塩を振りかけただけの肉、めちゃくちゃ美味しい!
「あのオウジサマは婚約者を伴って領地に逃げているようですよ。でも今年の星祭りには戻ると宣言しています。現在王族として認められているのは、生存している七名のうち五名だけ。彼は数少ない王族として星祭りには参加しないといけません」
王族も結構数が減ったらしい。なんでも不慮の事故や病気が相次いだとか。ちなみに生存している七名のうち、一人は王様だし、もう一人は皇太子だ。王妃は王族とはまた違う扱いで、前は三人いたけど二人が病気療養のため実家に戻っている間に病死した。ちなみに生存していて王族と認められない二人は病気療養中だが、近々空の国へお渡りになるそうだ。
空の国っていうのは、神々のいる国のことらしく、高貴な人が死んだら全員もれなくそこに行くらしい。
意味がわからなくてドン引きした。
「王侯貴族以外はどうなるの?」
「人間、死んだらただの骨っすね」
いや、だからどうなるのよ。
「でも、神殿にたくさん寄付していれば空の国に行けますよ」
宗教こわっ! いや、この場合人間か・・・
「それって、一部の人だけが良い思いができるんでしょう? 神さまたちは怒ったりしないのかしら?」
「さあ、どうすかね」
黒服2が焼けた肉を勝手に取って食べ始めた。
あ、そっか。この国の神殿は張りぼてなんだっけ。前にそんなことを、赤い瞳のちゃらいお兄さんが言っていた気がする。
どこの世界も世知辛い。




