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これは優しいお話です  作者: aー
14歳 王都
260/320

移動だって慣れたものです

「ちょっと、俺のお嬢さんをそんな目で見てると殺すよ」

 早朝から物騒なセリフを肩越しに聞きながら、もそもそと固い肉を食べる。

 今まで何回も食べているはずなのにこの固さには慣れない。

「だってネッド! お嬢さんめっちゃ便利すぎん!?」

「あとネッドだけズルい! 俺らにも変われよ!」

 もぐもぐ。あ、ちょっと口の中切った。やっぱり走っている男の背中で食べるもんじゃないわ。

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

 急停止してわたしを下ろすと、ネッドはかがみこんで顔を合わせた。

「ちょっと切っただけよ。大丈夫」

 なんで気付かれたんだろう。

「あれ、お嬢さん、まさかネッドに背負われてんのに飯食ってたんですか?」

 時間短縮のため、わたしは大抵ネッドに背負われたまま移動している。移動時間が長いせいで腰は痛いし、退屈だ。

 同行者たちも急停止してわたしを取り囲んだ。これ、対外的にみると結構ヤバそうな構図だと思うわ。

「だってお腹がすいたんだもの」

 朝食というには味気ないけれど、食べられる時に食事をするものだとネッドが昔言っていた。

「さすがお嬢さんです。どこでも生きていけますね」

 満足そうに頷くネッドに、他の三人はドン引きだ。

 大旦那さまは確かに黒服を貸してくれた。ネッドの他に、何度か顔を合わせたことがある三人の男。名前は知らないけれど、知らなくても良いと言われた。

 彼らには彼らのルールがあるのだろう。わたしが誰かになにかを言いたいときは、その誰かが気付いてくれる。便利な人たちだ。

「お嬢さん、次は俺が運びますよ。食べるならこっちの干しキノコが旨いですよ」

「もらうわ」

「いや、そろそろ飯にしよう。お嬢さんが腹を空かせるなんてかわいそうすぎる」

「つってもこのへん食えるキノコ少ないぜ?」

 キノコ推しなのだろうか。

「大丈夫、俺がちょっと鳥狩ってくる」

 冒険者も驚きの行動力じゃなかろうか。

 こんな風にしてわたしたちは素早く森を抜け、次の街に向かっている。

「ねえ、お手洗いにいきたいわ」

「・・・お嬢さんって恥じらいないっすよね」

「ないわ。ネッドったらお手洗いまで付いてくるのが普通だもの。こんな森のなかで離れてくれるわけないし」

 黒服1が呆れたように言い、周囲を警戒して南を指さす。あっちならいいということなのだろう。

「ネッド待て! ついていくな!」

「大丈夫、いつものことだ」

「だいじょばない!?」

 黒服2は案外常識人っぽく、よく叫ぶ。大丈夫かしらこんな常識のある人がついてきちゃって。彼、昨日の夜抜け毛を気にしていたけれど、王都につくまで心と髪の毛、もつかしら?

「ネッド、あっちは俺らが見てるから、お前は向こうを警戒してくれ。お嬢さんだって妙齢の女性なんだ。下手なことして嫌われたくないだろ?」

 黒服3も発言はまとも。でも彼は熟女好きで、還暦以下の人には欲情しないと聞いたことがある。今回選抜されたのも、完全に安全な存在だからと言われた。

「でもお嬢さんは慣れてるぞ?」

「そうね、ネッドの変態は死んでも治らないわ。でもネッド、わたしお腹がすいているの。せめて飲み物が欲しいわ」

 男たちが四人も集まると騒がしいもので、こんなことで大丈夫だろうかと心配もしたが、わずか数日で森を抜けたことは褒めるべきなのだろう。

「なあネッド、お嬢さんマジすごいな! 毎回森につれてきたい! 素材は取れないけど、郵便事業がはかどりそう!」

「そうだろう。俺のお嬢さんはすごいからな」

「お前のじゃねえよ」

「あと五十年待てばいい女になりそうだな」

 人が寝たと思って走りながら変な会話をするのは、心底やめてほしかったけれど。


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