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これは優しいお話です  作者: aー
7歳 家族になりましょう
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ちいさな体 sideシシリー

 リーナとは星祭りの一件以来、なんども言葉を交わすようになった。

 最近ではフードなしでも店に来てくれるようになって、トトリの店も、この街も、少しずつ彼女を受け入れ始めていた。

 リーナはいつでも私を気遣ってくれて、とても可愛くて、もし自分に子どもがいたらと考えるぐらい大事になっていた。

 そのリーナが、心無い貴族に傷を負わされたと聞いたのは夜の仕込みを始めた直後だった。

 人づてに聞いて、いてもたってもいられなかった私は、女将さんの許可を貰うと同時に店を飛び出していた。

 居場所はすぐにわかった。普段は人気があまりない教会の入り口、男の子がなにやらわめいていて、近くには蹲る三人の男たち。

 そのすぐ前には黒尽くめの男たちが無表情で彼らを見下していた。

「あの女が悪いんだ! 化け物のくせに僕の言うことを聞かないから!」

 なんてこと! あんな子どもがリーナを傷つけたというの?

「ハーバード家は腐っても貴族。あとのことは大旦那さま方にお任せしますが、これ以上奥に入られますな。命の保証はしかねる」

 淡々としていたが、その目は凍えるほど冷たかった。

 思わず足が止まってしまうほど。

 でもそんな私に気付いた一人が、すっと道を開けてくれた。

「リーナさんがお待ちでいらっしゃいます」

「はいっても、いいの?」

「お願いします」

 目礼された私は一目散に走りだした。

 そこには、黒髪の少女が驚いた顔で座っていた。ちいさい体には見覚えのある少年がへばりついている。

 リーナの黒髪は、半分はおさげに、もう半分は途中から無残に切り落とされていた。

「ああっ、リーナ! なんてこと!」

「シシリーさん? どうしてここに・・・」

「あなたが大変だってきいて走ってきたのよ、それよりリーナ、怪我は? どこか痛いところは?」

 慌てて彼女に近寄ると、少年がリーナをぎゅうっと力の限り抱きしめた。

「んっ、いたいよ、アレク」

「・・・いやだ。いまは、このまま」

 あんた何を言ってるんだい!?

 彼にも思うところはあるんだろうけど、今はそれどころじゃない。私はおもいっきり彼の襟首を掴んで後ろに投げ飛ばした。

「ぐえっ!」

「馬鹿をお言いでないよ! 今はリーナの手当てが先だろう、この頓珍漢!」

「と、とんちんかん!?」

 リーナがおお、とか言ってるけどまあいいわ。私はその勢いのままリーナを抱き上げて歩き出した。

「シシリー、あんた早いな!」

「シシリーさまですね、とりあえずリーナさんを」

「お黙りっ、今は手当てが先だよ。道を開けな!」

 ギルマスと執事風の爺さんが途中邪魔をしたので思わず怒鳴って道を開けさせた。

 一度出入り口まで戻ると、まだあの少年がわめいていた。

「あんたがうちの可愛いリーナを傷つけたのかい?」

「な、なんだお前は!」

 ぎょっとしたような顔で後ずさるが、逃がしゃしないよ!

 私は片手でリーナを抱き留め、もう片方の手で少年の頭を思い切り叩いた。

「お貴族さまだか何だかしらないけど、あたしたちのリーナに金輪際近づくんじゃないよ! このすっとこどっこい!」

 叩かれたところに手を当てて少年が茫然と私を見上げるが、もうそんな子どもなんて目に入らなかった。

「中で準備ができております。いったん中へお入りください」

「ありがとうよ」

 私は教会の大きな入口から中に入った。本当はさっき、裏口から入ればよかったんだろうけど、そんなの関係者しか入れないから仕方がない。

 リーナを椅子に座らせて、とりあえず怪我がないかを手でさわって確認する。わずかに、首元に赤い線が走っていた。よかった、これなら後には残らないかもしれない。

 でも一歩間違えは大参事だったろう。

 女の子なのに髪を切られ、首を切られ、どれだけ怖かったろう。どれだけ辛いだろう。

「泣かないで、シシリーさん」

「泣いてないよ」

「きてくれて、ありがとう。シシリーさん」

 優しくそっと、ちいさな手が私の頭を撫でた。



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