花嫁登場! ・・・・あれ?
柔らかな春の日差しを思い出す暖かい金色の髪に、知的なブラウンの瞳。すらっと背が高くて無駄な肉もない身体は、旅装束のままでも十分に彼女の美しさを物語っている。
軽く挨拶をして、多少みられる程度に整えた屋敷を不審げに見た彼女は、それでも何も言わず浴室へ案内された。
御年二十六。貴族の令嬢ならばすでに大きな子どもがいる年齢だが、騎士として一生を捧げる予定だったらしく、結婚は諦めていたそうだ。
見せるためではなく、戦うための無駄のない美しい筋肉。そして、平らに近い胸元。
「レースでごまかすしかないか?」
ノア、本人を前にしてあけすけな。
「いや、あえて見せることで強さを強調する?」
とりあえず黙りなさい。
「ごきげんよう、わたくしはリーナ。ベルノーラ商会から参りましたの。花嫁衣裳を、こちらのノアとともに担当いたしますわ」
「お初にお目にかかります。リーナ嬢、ノア殿。私はジャナ・バルドメロと申します。このたび、辺境伯家に嫁ぐことになりました」
子ども相手だと馬鹿にしないあたり高得点だわ。
ちょっと表情がきりッとしすぎていて騎士のなごりが強いけれど、この街ではこのぐらいがちょうどいいかもしれない。
「急にこのようなことになってご不安かもしれないけれど、わがベルノーラ商会はあなたの幸せを心から願っております。つきましては、花嫁衣裳を用意したいのだけれど、お付き合いいただけるかしら?」
「はっ」
返事が花嫁っぽくないのが気になるが、とりあえず別室に連行。風呂上がりで多少磨かれた女性に会うドレスを選んでいく。
「ちょっと失礼。あなた、背中もとてもきれいね。ノア、これならば背中を強調いたしましょう」
「そうだね。でもリーナ、いきなり女性の服を脱がせるのはどうかと思うよ」
「あら、ごめんなさいね。ここには男はいないからいいかと思って。さっき付き合ってくれると言ったし」
薄いシャツ姿だったから、遠慮なく背中をめくってしまった。これがドレスだったらできない芸当だ。
「お気に障ったかしら?」
「障った。僕だって男だ」
「あなた、最近女嫌い進行しているじゃない。欲情しないでしょ」
「そもそも仕事中はどんな美女を前にしても欲情しないよ。僕を舐めないでくれる。港町の女たちの奔放さはこっちの比じゃないよ」
あらあら、大変ねーと適当な会話をしていたら、当の花嫁が石造のように固まっていた。
「お嬢さん、俺も実は男なんですが」
「そうだったかしら。ネッドは別にどうでもよかったから」
「最近冷たくないですか?」
最近変態度が増しているから、あなたに対してはこのぐらいでいいのよ。
「そんなことよりも、あなたは背中を強調しましょう。ノア、ラフを何枚か書くから、見積もり出して」
「生地は?」
「ネッド、見本を・・・ああ、これと、こっちもいいわ。この生地のデザインで考えてみようかしら。ありがとうネッド、もういいわ。部屋を出て頂戴」
ネッドはちらりと花嫁を見たが、一瞬だけ天井にも視線をやったので護衛が上にもいるのだろう。スッと頭を下げて出て行ったのを確認したのち、遠慮なく花嫁の衣服を剥ぎ取った。
「ちょっと割高になるよ」
「仕方ないわ。レースは手袋だけにして・・・ああ、ガーターのレースをこっちか・・・これで抑えましょうか」
「シンプルすぎない? せっかくのドレスなのに」
「いいのよ、あの花婿、どうせレースなんて興味ないわ」
「いやそうだろうけど・・・」
花嫁のガーターストッキングは、結婚式当日の朝、花婿が履かせるのだ。そして初夜の前に脱がせるのも花婿の役目なんだって。なんだそのやらしい習慣。
つぎつぎに選んでいく。選ぶのは多少デザインが異なるレースにして、本人の目の前に置いていく。少しでも辺境伯家の負担を減らすため、人に見えない場所のレースは安いものを選ぶ。それでも他の商会で買うよりは質も値段も高い。
王都で目の肥えた女性でも、うちの商品に心奪われることだろう。シンプル故に質の違いは一目瞭然だ。




