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これは優しいお話です  作者: aー
招かれざる客
248/320

これが本当の恋というものか sideスヴェン

 全身に刺青を入れた女を見たのは初めてじゃない。

 俺の国にも何人かいた。

 でもあの、人を正面から見つめる暗い色の瞳は綺麗だと思った。

 辺境伯令嬢、ハイディ。

 赤茶色の長い髪を高い位置でまとめ、彼女は大きな槍を構えた。

「リーナに、手紙を預かってきたんだ」

「お前が勝ったら聞いてやる」

 いやいや、手紙を届けに来ただけなのに。

 リーナは相変わらず俺を簡単に雇ってくれるから、ギルドの実績もいい感じにあがっていく。そのうえ金払いもいい。素敵な関係だ。

 ただ一つ惜しむことがあれば、もっと戦闘系の依頼も欲しいなってことなんだけど。

 その女が綺麗に構えたので、俺も無意識に剣を抜いていた。

 たまには楽しめるかもしれない。

「まあ、いいよ。遊ぼう」

 わずかに眉を寄せた女が先に動き出した。

 勝負は一瞬でつくだろうが、それでは面白くない。

 俺は口元に笑みが広がるのが止められなかった。


「スヴェン、なにかいいことがあったのかしら? 今日はなんだか浮かれているのね」

「うん、運命に出逢ったんだ」

 天井裏に控えていたヤツが、ナイフを一本落としたんだけど、なにあれ?

 奥さんに貰った高級ワインを飲んでいたのに邪魔しないでほしい。

「まあ、運命ですって? あなた、そんなに夢見る人だったかしら?」

「ううん。俺はいつでも現実を直視するよ。でもリーナ、君が出逢わせてくれたんじゃないか」

 なんのこと? と首をかしげる少女にお礼を伝える。

「ハイディのことだよ。彼女は俺の運命の人だ。初恋なんだ」

 ただでさえ大きな瞳をこれでもかと大きく見開いたリーナは、しばらく言葉を探していたようだ。

「そうなの。それで、彼女はなんて?」

「次こそ殺すって! あんなに大きな声で俺に伝えるなんて、熱烈だよね。ああいう気の強い子、好きだな」

 お互い暴れまくって衣装も髪も酷い有様になったけど、後悔はない。

 まるで獣の咆哮のような叫びが耳に残っていて、ドキドキした。

「・・・まあ、そうなのね。あなたも強い人だから、きっと相手にも強さを求めるのね」

「うーん。今まで付き合った子はそんなタイプじゃなかったんだけど、俺、彼女みたいなのが好きみたいでさ。これが恋なんだね。彼女のことを考えると嬉しい気持ちになるんだ。まるで強敵の魔物を前にしたみたいに!」

 あれ? リーナの後ろにいつのまにかネッド。なんで君、そんな蛆虫を見るような目で俺を見るの? 君ぐらいの変態さんにそんな目を向けられるのは心外なんだけど。

「・・・それは、恋なの? 強い敵に遭えた嬉しさとは何が違うのかしら?」

「彼女の目が忘れられないんだ。それにね、リーナ。恋はするものじゃなくて、落ちるものなんだよ!」

「そう・・・わたしにはまだ難しいわ」

 そうだよね、わかるよ。君はまだ子どもだもの。

「また明日、デートするんだ」

「・・・・え」

「そうなんだよ! また会う約束をしたんだ。次こそ殺してくれるらしいよ。もう、可愛いよね」

 全身で激しい呼吸をする姿にゾクゾクした。またあの姿を拝めるなんて、興奮する。

「好きな人を傷つけるのが、あなたの趣味なの?」

「ちゃんと上級ポーションもって行くから死なせないよ。あんなに素敵な女性に死なれたらもったいないじゃない。ああでも・・・俺がこの国を出る時は連れていきたいな」

 うっとりと呟くと、リーナが無言でワインをついでくれた。

「とりあえず、飲み切っちゃって」

「うん、ありがとう!」

 素敵な人を紹介してくれてって言うと、リーナが静かに笑った。

 相変わらず大人びた子だなって思ってワインを飲みほしたんだ。


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