シシリーが熱を出したので
今日は、わたしとテラはお留守番。
昨夜から熱を出したシシリーが診察中だから、お静かにって別館のライブラリーに追いやられた。
テラは絵本にあまり興味がないのか、いつの間にか増えているぬいぐるみの間に突撃しては小さなドラゴンのぬいぐるみをパシパシ叩いている。
「ヴィルドラさん、あのドラゴンのぬいぐるみ。色違いが欲しいわ」
「現在、テラ様がお持ちの空色の他、赤、黒、黄色のドラゴンを作成しております。業者を急がせましょう」
「そうね、テラはピンクや黄色も似合うと思うのよ。追加して頂戴。あと、利権を急がせて商品化してちょうだい。テラのお気に入りと言えばいいわ」
「お任せを」
ヴィルドラさんは安定のテラ信者だ。
「そうだわ、最近ちょっと偏食がすぎるわ。お野菜を好んで食べるのもいいけれど、お魚も食べさせるようにして」
「テラ様は魚をあまり好まれず・・・」
なんだその甘やかしは。わたしは大きな図鑑をぱらり、ぱらりと捲りながらため息をついた。
「身をすりつぶして団子にしてスープにでも入れなさい。トマトのソースと絡めてもいいわね。ともかく、好き嫌いはダメよ」
「・・・芋のようにすりつぶすのですか」
「そうよ」
パラリとページをめくると、ちょうど異国のドラゴンのページが出てきた。
ドラゴンなんてファンタジーだわと思いつつしっかり読み込む。なんだか某イギリスファンタジー映画に出てくるような骨ばったドラゴンだ。
できるならお目にかかりたくないほど狂暴らしい。
ふと気づくと、ヴィルドラが真横に立っていた。なにこの人怖い。
「ほかには、どのように調理いたしましょう」
「まだ歯が生えそろっていないから、すりつぶしたものをいろいろ調理すればいいわ。ああ、あの子麺も好きでしょう。星形のお野菜をトッピングすれば見た目も可愛いわ」
「ほう」
「それから、リンゴをすりつぶしてきてちょうだい。シシリーが食べやすいように。ちょっと様子を見てきてね。きっとテラも心配しているわ」
「かりこまりました」
テラの名前を出すと気持ち悪いほど素直に従うな。
「対象をすりつぶすことがお好き」
今なんて?
意味の分からない呟きを残して彼は消えていった。
テラがきょとんとこちらを見ているのが可愛い。
「もう少し便利な調理器具も必要ね。次はそれを開発しようかしら。テラ、おねえちゃん頑張るわね」
「うきゃあ!」
素敵な笑顔をいただきました。
「シシリーさんの熱はだいぶ良くなっていますよ」
ネッドがティータイムに乱入してきてそんなことを言うものだから、ヴィルドラさんが「私がりんごを差し上げたのだから当然だ」と返した。
テラ用に、同じようにリンゴをすりつぶしたものを食べさせつつ横目で頷く。
「二人ともありがとう」
「あと、下手人のことですが、予定通り森に入ったことになりました。何名かも一緒ですが、こちらの息がかかった冒険者たちも用意しております」
「話が漏れないかしら?」
「大丈夫でしょう。その辺はぬかりなく」
それはそれで詳細を聞くのが怖いわ。
「あと、お嬢さんの好み通り、下手人の足は砕いておきました」
「なんて?」
「すりつぶすのが好きだとこいつが」
ヴィルドラさん?
「違いましたか?」
なんでそうなるのよ。
「どちらにせよ、魔物が勝手にやったことにできますから大丈夫ですよ」
あんたの頭が大丈夫じゃないわよ。
「それに、どうせ死体はあがりませんから」
今日の笑顔は一段と眩しいわね。
「あのオウジサマはどうしたのかしら?」
「下手人と話をしています。旦那様との取引ですから」
「ふうん」
大旦那さまが、まるで悪役のような顔で王族に取引を持ち掛けた瞬間を思い出してため息が出た。
「敵に回したら大変ね」
「そうですねえ」
他人事のようにネッドが頷いた。




