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これは優しいお話です  作者: aー
招かれざる客
233/320

もうちょっと詳しく

「・・・どうして冒険者と関わろうとする。街で守られていればいいだろう」

 呆れを隠さない目で見ながら言う男に、ふむと考える。

「父が冒険者だったので。今は怪我をして引退しましたが、どうすれば怪我を減らせるのかなって」

「強くなるしかないだろう」

 いや、そうじゃなくて。そうなんだけど!

「でも生まれ持った体格や、何かを学ぶための環境とかでも大きく生存率は変わってくると思います。王都でスラムの子たちが冒険者になりました。彼らがあと数年生き残るために必要なものは何かなって考えたんです」

 怪我で引退する人もいれば、魔物に殺される人もいる。文字が不自由で不平等な契約を結ばされる人もいるし、それらを知らなかったお前が悪い、で済ませていい問題ではない。

 馬鹿でも冒険者になれるが、馬鹿では生き残れない殺伐とした世界なのだ。

 日本人は学び方を知っている。本を読む習慣を小学校から身に着けている。人によってはさらに小さい頃から図書館で本を読む楽しさを知っている。それらは決して一長一短で身につく習慣ではない。

 そして本を読むことが知識につながることを知っているだけで生存率は上がるのだ。

 どんな魔物がいるのか、どんな方法なら勝てるのか、効率的に倒せる武器は、防具はと考えることができる。

 怪我をした時も正しく処置できれば、生き残れるかもしれない。

「ギルドでも最低限の教育はしているだろう」

「このあいだ受けました。全く役に立たないお話ばかりでした」

「お前の求める基準が高いだけじゃないのか」

「理想は高く持たないと、地べたばかり見ていては生き残れないじゃないですか」

 はあ、とわかりやすく大きなため息をつかれてしまたった。

「自分にあった武器を探すのは容易ではない。師事する相手を間違えればそれこそ命に係わる。師匠が弟子に嫉妬して酷い怪我を負わせることもなくはないからな。だが、それだって師事できる相手を見つけられることも奇跡的なんだ。簡単じゃない。もしスラムの出身なら、よけいに難しいだろう。冒険者の中には選民思想の凝り固まった阿呆も存在する」

「貴族もいるということですか?」

「貴族もいるが、わりとでかい商家のものもいるな。まあ、そういう奴は出世しないから放っておけば勝手につぶれるが」

 世知辛い世界だ。

「どうすれば、弱い冒険者を鍛えられますか」

「実践を積むしかない」

 いや、そうなんだけど。

「ギルドの掲示板で、一番弱い冒険者の仕事を受けたことがありますが、そんな方法で進んでいっても、強くなれないのでは?」

「なんでお嬢さんがそんなことしてんだよ・・・まずは外を知らないと、戦う以前の問題だろう、気の長い話になるかもしれないが、知っていくことは無駄ではない。街の中の仕事にしたって、馬鹿に出来るような仕事は一つもない。例えば家畜の世話やガキの世話にしても、こいつらを守るんだって気概につながるだろう」

 へー。

「人間関係を構築できない人には辛い世界ですね」

「冒険者やめりゃいいんだ、そんな奴は」

 うーん。厳しい。

「じゃあやっぱり、身体的なことを除いてもわたしには難しい職業のようです」

「身体的? 体が小さいからか?」

 いえいえ、もっと具体的に。

「絶対に武器を持ってはいけないと言われています。間違って自分を刺してしまうから」

「・・・・・・・・」

 今日一番の冷たく呆れた視線をいただきました。

 その後、会話が続くことはなかった。


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