丁度いい機会なので
冒険者はいままでにも結構見てきたと思う。
でも直接関わることはほとんどなく、この機会を逃せば次はいつになるかわからない。
ネッドはあまり他人と私を近づけたくないだろうし。
じいっと見つめていれば、クルークという名前のいかついオジサンがわたしを静かな瞳で見返してきた。
昔動物園で見たライオンみたいな男だ。しなやかな筋肉に、肉食動物のような鋭い瞳。警戒心をつねに持ち続け・・・あれ、ライオンってメスのほうが体力あるんだっけ?
狩は意外とメスがやっていたような・・・どうだっけ? と思考がずれていく。
だめね、だいぶ疲れているみたい。
シシリーは今、わたしをぎゅうぎゅう抱きしめて眠っている。朝まで起きないようにパンがゆの中に眠り薬を混入させたから絶対に目覚めないだろう。
危険な森を抜けるのに、体力のないシシリーは危険だ。護衛の一人も怪我をしてしまったし、冒険者が来てくれて本当によかった。
感謝してるよって思って男を見つめていたら、わずかに眉が寄って不機嫌そうな顔になった。
こう見るとちょっとゴリラっぽい。
「眠れないのか」
まあ、今日はあんまり動いていないし、なんならシシリーのせいで暑くて落ち着かない。
「そうですね。今までの護衛と違うので、落ち着きません」
「今日はなんで護衛を連れてこなかった」
いやもうイレギュラーだったんで。でも言えないけど。
「連日連夜変態行為を繰り返したせいで地下牢に入れられているんです。たぶんそろそろ抜け出したころだと思うのですが」
毎晩天井に張り付くなんて、ネッドは本当に変わっている。
「意味がわからない」
でしょうね。大きなため息に頷き返す。
「大丈夫です。意外と慣れるものです」
「どんな変態行為をすりゃ牢屋に入れられるんだよ」
「わたしが眠るまで天井にはりついたり、お風呂中もそばで待機していたり、トイレは済むまでドアの前にいたり、時々下着とか洗濯してくれたり、あと死んでほしいと言ったら笑顔で頷くぐらいです。そんな彼なのでわたしの月のものの周期も完全に把握していて、薬草茶を淹れてくれたりします」
最初は苦手だったけど、今ではなくてはならないお薬的存在だ。
「警邏に突き出せ」
本物の変態じゃねえか。と小さく呟く男。だから変態なんですよ。
「薬草茶、結構きくんですよ。むくみ対策にもなりますし」
「いいから牢屋にずっとつないどけ」
「うちの両親を納得させてプロポーズしてくれるそうです」
「お前そんなののどこがいいんだ」
「でも強いです」
この女の基準がだんだんわかってきた気がする。相当な馬鹿だ。とか小声で言っても聞こえますよ。
「そいつはイイ男なのか」
「顔は・・・よく職務質問される感じの人ですが、変装すれば滅茶苦茶格好いいです」
「・・・お前の趣味が悪いこともわかった」
「人は顔じゃないんですよ」
何言ってんだこいつって顔で見ないでほしいが、ネッドを語るには変態的な話は避けて通れないのだ。
「丁度いい機会なので、冒険者が活躍する方法を伝授してください」
「嫌だ。お前には必要以上にかかわる気はない」
「今度冒険者用のグッズや衣装を増やす予定なんです!」
「知るか、俺は今困っていない」
ちっ。




