お~れはジャイ○ンな人
星祭りの日は夕方まで仕事をしていた父をいつも通り迎えに行き花を渡した。照れたように笑う父と一緒にトトリに行けば(かなりしぶられたが)、ピンクの花を髪にさしたままのシシリーさんが出迎えてくれた。
この世界での二度目の外食。今回はとても楽しく終えることが出来た。トトリの料理はどれも美味しくて幸せだった。
さて、そんな楽しい時間が過ぎてだいぶたった今日。
私はベルノーラ家が支援している教会でお掃除を手伝っていた。もともと人手不足だったらしく掃除要員はいくらでもほしいんだって。数か月に一度こうして大掃除のお手伝いにくるらしい。雑草がぼうぼうで抜くのは大変だけど、私の他に何人かの使用人が一緒に頑張っていた。
「おいお前!」
雑草を抜くのって大変だけど何故か集中してできちゃうんだよね。えっさ、ほいさっと。
「こらっ、お前!」
この雑草集めて後で芋を焼けないかアレクに聞いてみようと考えていたら、いきなり頭上から怒鳴られた。え、なんで?
「そこの化け物!」
そこにはキラッキラした金髪碧眼の少年が立っていた。うしろには護衛のような屈強な男たち。
「僕を無視するな!」
なんのこっちゃ?
不思議に思って首をかしげると、少年がふん、と胸をそらして偉そうな態度で更に口を開いた。
「僕はジェシー・ハーバード! ハーバード家の嫡子だ!」
いや知らんがな。
でも名乗られたからには名乗り返さないといけないんだよね。ああもう、今無心で草むしりしていたのに。
「ごきげんよう、ジェシー・ハーバードさま。わたしはリーナです」
こんな時でも優雅に見えるよう礼が取れるようになったワイズさんの教育は素晴らしい。
「どこの家のものだ!」
いちいち怒鳴るのが癖なんだろうか?
綺麗な洋服を着ているからには良い所の子だろうけど。
「ベルノーラ家にて、行儀見習いをしております」
「ベルノーラ・・・? ああ、あの金の亡者か」
その言葉には後ろの護衛たちの方が慌てたようだったけど、彼は気づかなかったようだ。
「・・・わたしに、どのようなご用でしょうか」
とりあえず今日中にこの辺一帯の雑草を処理したいんだけど。
というか、なぜこんな教会の裏手にあるじめじめしたところに子どもが・・・・・
「喉が渇いた。茶を淹れろ」
「・・・では、他の者を呼んでまいります」
「僕はお前に言ってるんだぞ!」
「お茶の葉を、もっていません」
「いいから僕の言うことをきけ!」
なにこの子。某猫っぽいロボットにでてくるジャイ○ン?
「・・・しかし」
「お前みたいな化け物が淹れる茶を飲んでやると言っているんだ! 感謝しろ!」
あらやだー。性格の悪い子どもだこと。
「・・・申しわけありませんが、お茶の葉をもっていないんです。すぐに、他の者をつれてまいりますので」
こういう言葉が通じない子って本当に面倒だわ。
「そうか、お前化け物だから茶の淹れ方も知らんのだろう! ははっ!」
いやいや、一般的な平民はお茶なんて滅多に飲まないらしいよ。分かっていってんのかしら?
「やめてください!」
その時、一人のメイドが走ってきた。今日一緒にやってきた屋敷メイドのテファだ。
もう成人しているらしいけど、まだまだ十七歳。二重のオリーブの瞳に大粒の涙を浮かべて私とジェシーの前に立ちはだかった。その手はわかりやすく震えており、彼女が勇気をもって私を助けてくれようとしているのがわかる。
「なんだ貴様! この僕に指図しようっていうのか!?」
少年の口から貴様とかやめてほしいわぁ。将来心配だわぁと他人事のように思っていると、テファがびくりと震えた。
「こ、こちらのお嬢様はベルノーラ家が責任を持ってお預かりしております。万が一にも今の様なお言葉はおやめください!」
「なんだと!? たかがいっかいの商人風情が生意気な! 僕はハーバード家の嫡子だぞ、わかっているのか!?」
だから知らんがな。
本来なら護衛の人たちがなだめるところだろうが、彼らはこういうことに慣れているのか何とも思っていない顔だ。
「と、とにかく、酷いことを言わないでください!」
彼女が怒鳴った瞬間、少年は素早い動きで腰の短剣を抜いた。




