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これは優しいお話です  作者: aー
帰還
225/320

ヤモリ

「リーナさん。本日は本当に申し訳ございませんでした。我がベルノーラ商会が責任をもって対処いたします。さしあたり、商業ギルドにはしばらく納品を控えましょう。世界中から攻めを受けるでしょうが、事の重大さを理解いただかなくては」

 フレスカさんの淹れたお茶を二杯も楽しんでいた時、ベルノーラ商会の偉い人が何人か突然やってきて、笑顔でそう言って出て行った。なんだ、あの嵐のような人たちは・・・

 どうせベルノーラの屋敷に帰るんだから、そこでも話ができたでしょうに。

「世界中から責められるの? 関係ない人が?」

「そりゃあ、今回は明らかにあっちのギルドが悪いからな。駄犬の世話ぐらいすればいいのに、再三の忠告を無視してリーナに合わせちまったんだからな」

「彼女も、街の人たちのようにわたしの噂を信じてしまったんですね」

「あー・・・・うん、そうだな」

 なにやら歯切れが悪いアーシェに目をやる。本当は、彼女の両親がスタンピードで亡くなったことを、別の職員の会話で知ってしまった。

「ご両親が今の彼女を見たら、残念に思われるでしょうね」

 だから隠さなくていいんだ。アーシェは嘘が下手なんだから。

「知ってたのか」

「わたしが可愛くて美人で天才なのは、まあ仕方がない事です。たいして美人でもない彼女が勝手に嫉妬するのも、勝手に恨むのも彼女の責任ですからどうでもいいのですが、まさかベルノーラの皆さまにもご迷惑をかけていたなんて」

 これは更に売り上げに貢献せねば。取り急ぎ新しい商品でも開発するか。

「迷惑とか考えるな。スタンピードは誰のせいでもない。それを勝手に逆恨みするほうが悪いんだよ。で、今後どうする?」

「そうですね。ギルドの教育の質が思いのほか悪すぎます。商業ギルドであの程度でしたら、よそはどれほどか・・・かと言って教育に関しての重要性を説いたところで貧しい人たちにどうできるか・・・まあ、この件はおいおい考えましょう。本来は王侯貴族が先導して変えていく問題です」

 アーシェが興味を惹かれたように顔をあげた。口元にクリームがついているわよ。

「ただまあ、お貴族さまには、民は愚かであってほしいのかもしれませんね。そのほうが政治もとりやすいでしょうし」

あら、おかしいわ。どうしてそんなドン引きしたような顔でみるのかしら

「お前は貴族にはなるなよ。裏でどんな怖い事するかわからん」

「貴族になんてなったら、旅ができないじゃないですか」

「まだ旅がしたいのか! この前帰ってきたばかりじゃねえか!」

「まだまだ、この国の美味しいものを食べつくしていないんですよ!? 砂漠も見ていないし、大きい動物にも乗っていないし、面白い文化をもっと!」

「いやお前、少し落ちついた生活しようとか思わないのか!」

「非日常の中にこそ発見はあるんです!」

「お前のおやじに言いつけるぞ!」

 何その、子どもみたいな言い分。引くわー。でも効果絶大。だって泣かせたいわけじゃないもの。

「えー・・・いや、それは・・・・困る」

「じゃあしばらく大人しくしておけ」

 いつでも大人しいと思うけれど?

 不思議に思って首をかしげると、こいつは本当に分かっていないと怒鳴られた。解せぬ。

「それにしても、ネッドの奴をどうするつもりなんだ? あいつ、もうお前しか見てないだろう。今はベルノーラが一応飼ってるが、今後のことは厳しいぞ」

「どうするもなにも、彼も過保護ですからね」

「あれを過保護ですませるつもりか? あいつ、お前に求婚してるらしいじゃないか。あいつに少女趣味があったとは驚きだが」

 どこまでバレてるんだろう。

「まあ、頑張るつもりらしいですから、今後の展開は読めませんねえ。それにネッド以上に旅のお供として丁度いいのもいませんし」

「だから旅はヤメロ」

 ネッドにはもう生理が来てることを数年前にバレているし、年齢もバレているし、本当のならば今でも結婚できるんだけど、書類上未成年ってことになっているので彼は我慢しているようだ。

 我慢しなくなった時が怖いから何とも言えない。今のうちに逃げたとしても、彼は全力で追ってきそうだし、いっそのこと船で海外逃亡・・・いや、追ってくるな。

「彼はわたしのどこがいいのでしょう」

「見た目・・・は違うだろうな。あいつ、あんまり人の見た目に拘らないからな。お前が旅の間何かしたんじゃないか?」

 信用ないな、わたし。

「なにか・・・うーん・・・?」

 ネッドは最初からわたしのことを守るべき存在として言いつけられていた。それ以上になにかあっただろうか。

「まあともかく、今日のことはネッドに軽く伝えておく。下手に隠すとあとが面倒だからな」

「そもそも、ネッドは今どこに?」

「地下牢だろ?」

「なんでまだ地下牢なんですか?」

「夜中お前の部屋の天井に張り付いてたかららしいぞ。お前、本当に喰われないようにしろよ、まだ子どもなんだから」

 一瞬、ネッドがヤモリに思えて噴出したら、アーシェに怪訝な顔をされた。


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